無線使用の規制が話題となったシンガポールGPで、同様に注目を集めていたのは、F1人気の低迷をいかに食い止めるかという問題だった。今季、象徴的だったのは4人のドイツ人が出場し、両チャンピオンシップでトップに立つメルセデスにとって凱旋レースとなったドイツGPでホッケンハイムリンクのスタンドに空席が目立っていたことだった。
フェラーリのホームグランプリとなったモンツァでは、こんな横断幕がグランドスタンドに掲げられた。
「UGLY NEW CIRCUITS, UGLY CARS, NO ENGINE SOUND. F1 IS DEAD」(迫力がない新しいサーキット、醜いマシン、音がないエンジン。F1は死んだ)
観客動員が落ち込んでいることには、さまざまな理由が考えられる。ターボエンジンになって迫力あるエキゾーストサウンドが失われたこと。レギュレーションが複雑になってわかりにくくなっていること。メルセデスが独走し、興味が失われたこと──。
小林可夢偉も空席が目立つスタンドを憂慮しているドライバーのひとりだ。
「モンツァでドライバーズパレードしていたら、アスカリのあたりのスタンドに数えるほどしか観客がいなかった。ドライバーがみんな『大丈夫か?』って話していたくらいですよ」
可夢偉によれば、観客動員数減少の最大の問題はチケットが高額なことではないかという。ただし、問題はそれだけではない。
「やっぱりテレビ中継で地上波放送がなくなったことじゃないですか。この間フォーミュラEの開幕戦が終わったあと、いろんな人から『フォーミュラEに出てなかったんですか?』って連絡がありましたから」
この件について、かつてフジテレビでF1製作に携わっていたスタッフに尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「F1に限らず、スポーツ中継を地上波が受け持つ時代は、もう終わったのではないでしょうか。フジテレビに限らず、スポーツ中継は有料放送にどんどん移行しています。では、地上波でのスポーツ中継は必要ないかというとそうではなく、地上波は有料放送へ視聴者を動員するプロモーション的な存在に徹するのがいいのではないかと考えます。たとえばWOWOWがテニスの試合を放送し、錦織選手が活躍した時にニュース映像を地上波に貸し出すという方法。今年フジテレビが地上波でF1を復活させたのも、おもな理由はそれです」
ちなみにフジテレビのF1中継の契約は今年更新され、その期間は公式には複数年としか発表されていないが、関係者によれば「2015年までの2年間」だという。その後についても「フジテレビにはF1に対して情熱を持っている人がたくさんいるので、安易に放送権を手放すことはない」と、契約を更新する可能性を示唆していた。
(尾張正博)