2番グリッド上でニコ・ロズベルグがステアリングに問題を抱えてメカニックたちが慌ただしく作業していたころ、9列後方の20番グリッドでスタートの時を待っていた小林可夢偉のケータハムのマシンに異変が起きていた。しかし、その時点では可夢偉もケータハムのスタッフも異変に気がついていなかった。発覚したのは、フォーメーションラップのスタートが切られた直後だった。
「最初にエンジンのパワーがなくなったと思ったら、その次に何かが燃える匂いがしてきて、煙が出てきたので『どうしたらいい?』って無線で伝えたけど、何の応答もなく、そうこうしているうちに今度はブレーキも効かなくなったので、もう危ないと思い、自分の判断でクルマを止めました」
土曜の予選後に「マリーナベイ・ストリートサーキットでの61周は今年一番タフで長い戦いになりそう」と語っていた可夢偉だったが、フォーメーションラップの途中、8コーナーでゆっくりとマシンを止め、レースを1周も消化することなく、リタイアした。
いよいよ次は可夢偉にとって母国グランプリとなる日本GPだ。2年前の2012年にはザウバーのマシンを駆り、マクラーレンのジェンソン・バトンとの3位争いを制して日本人として3人目となる表彰台に上がった。だが、今年は少し違う状況でホームグランプリとなる鈴鹿へ向かう。
「まだ日本GPに出られるかどうかわかりませんが、しっかりと準備をして待ちます」
土曜に緊急ミーティングを開いたマンフレッディ・ラベットは、緊急ミーティング後「日本GPでケータハムに乗るドライバーはまだ決まっていない。はっきりしていることは、いいドライバーが走るということ」と語っていた。レース直後に、もう一度確認しようとケータハムのチームホスピタリティへ行くと、広報に「あるミーティングのため、もうサーキットを出ました」と告げられた。
合同インタビューの最後に「グリッド上でケータハムのチームスタッフたちが集合写真を撮っていましたが……」と尋ねられた可夢偉は「どうなるんですかね。チーム、なくなるんじゃないですか」と笑って答えた。冗談なのか、本気で言った言葉なのか、真意を聞く前に、可夢偉は足早にサーキットのゲートへと向かっていった。
(尾張正博)