夏が終わり、いろんな食べ物がおいしい秋がやってきます。私が居酒屋で働いていたころ、仕事終わりにサラリーマンが飲みに来ているのを見ると、羨ましく思ったものです。
「俺も、アフターファイブなるものをしてみたいなぁ…」
居酒屋勤務ですと、午後5時からが仕事の本番ですから。お客さんのほとんどは、仕事から解放されて明るく飲んでいましたが、中には必ずしも楽しそうとは言えない人たちがいたのも事実です。(文:ナイン)
「延長」はよく聞くけど「途中で終わり」は初めて
私が都内の店舗で働いていた頃、毎回6~7人で訪れる常連のサラリーマンのお客様がいました。全員が男性で、年齢は30代から40代くらい。週に1度は来店してくれて、必ず飲み放題コースを選びます。
ある時、私が店で働いていると、この常連グループから3人ほどが厨房前にやってきて、こんなことを言われたのです。
「あの、今日の飲み放題なんですけど、もう終わりにしてもらえますか?」
飲み放題は2時間の時間制で、まだ1時間ほどしか経っていません。「飲み放題の延長」はよく言われますが、「途中で終わり」と言われたのは初めてです。
困った私は「まだ1時間近く残っていますが」と確認をしましたが、「大丈夫。ここだけの話、正直みんな迷惑してるんです、この飲み会」と即答されました。
どうやらこの人たちは、上司に無理やり付き合わされているだけのようです。グループの中心には、見るからにボスのような圧倒的な風格を持つ人がいます。推定身長180センチ、体重100キロほど。タレントの安西力也さんのような強面です。
さらに話を聞くと、この方が怖いのは、見た目だけではないとのこと。仕事でも笑顔はほとんど見せず、部下たちが少しでも私語をしていると、
「ニヤニヤ笑ってんじゃねぇ! 真面目に仕事しろ!」
と怒鳴るので、社内の雰囲気は殺伐としているのだそうです。
「毎回毎回、嫌々来ていたのか…」と思うと不憫に
楽しいはずの飲み会でも、いつも決まって部下たちの名前をあげながら、「ダメ出し飲み会」になってしまう、ということでした。
「○○(部下の名前)の悪いところはなあ」
「お前らはどう思う? コイツに文句あんだろ?」
飲み放題の中止を申し出た人たちは、「みんな結構酔ってますし、もう時間です、って言ってもらえませんか」と懇願します。どうしたものかと迷いましたが、悲しげな表情から無下に断ることもできず了承しました。
「毎週のように来店しているのに、毎回毎回、嫌々来ていたのか…」
そう思うと、誘いを断れない部下も誘い続ける上司も、本当に不憫に思いました。意を決してお客様のテーブルに行き、「お客様、飲み放題の時間です!」と言いに行くと、安西さん似の方が、時計を見ながらこう言いました。
「えっ本当か! …おい、お兄ちゃん、まだ早くねぇか?」
意外に冷静な言葉と、ドスの利いた声に圧倒されてしまい、「す、すいません…。時間を間違えていました!」と慌てて引き下がりました。
この時、飲み放題を終わりにして欲しいと言ってきた方と目が合いました。何となく気まずい空気になったことは、言うまでもありません。
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