勤めている会社で年収が上がったら、普通は満足して「ずっとこの会社にいよう」と思うものだろう。しかしLINE社長の森川亮氏は「まずいな」と思い、逆に年収が半分になる会社への転職を2度繰り返したと、インフィニティ・ベンチャーズ・サミット「サマーワークショップ2014」で明かしている。
森川氏は筑波大学を卒業し、1989年に新卒で日本テレビ放送網に入社した。日本テレビは平均年収が高く、有価証券報告書によると約1400万円前後で推移している。森川氏も20代で年収1000万円を超えたそうだ。
給料もらいすぎの感覚が転職の引き金に
当時でも、おそらく同世代サラリーマンの倍近い年収を貰えていたに違いない。就活で言えば完全に「勝ち組」であり、他の人と比較して優越感に浸り続けることも可能だっただろう。しかし、森川氏は逆の発想だった。動画サイトVimeoに公開された「IVSサマーワークショップ2014 Session6」には、こんな発言も見られる。
「このままだとまずいなと思ったんですよ。なんか、多分ダメになっちゃう、インフレを起こしている気がして」
自分の価値と年収のバランスが崩れた気がしたのだろう。そこで日本テレビを辞め、2000年2月に「年収が半分くらい」のソニーに入社した。そこではトヨタや東急などと、ブロードバンドサービスのジョイントベンチャーで経営に携わるようになった。
しかしそのうち年収は上がる。するとまた「まずいな」と思って、2003年5月に再び「年収が半分くらい」のハンゲームジャパンに入社したそうだ。
森川氏は「人それぞれ違う」「良い環境にいるほうが伸びる人もいる」としながらも、自分流の成長する方法を披露する。
「僕の場合は、このままじゃいけないと思って限界に追い込んだ時に、自分の能力が発揮されて、それを乗り越えた時にものすごく成長する。いかに自分が成長する環境に身を置くかとか、どれだけ5年前の自分と、今の自分と、5年後の自分と変わっていけるかと想像しながら生きるべきかなと思っています」
「ストレッチして成長」すれば報酬もついてくる
ハンゲーム社はNHN Japan社に名前を変え、2011年にコミュニケーションアプリ「LINE」を生み出した。2013年4月には商号もLINEに変更し、森川氏は代表取締役社長の座につく。
結果的に森川氏は、日本テレビやソニーに居続けるより、さらに高給を手にしたと予想される。今後LINEが上場すれば、なおさらだ。しかしその裏には、給料だけではなく、わざと自分を苦しめる道を選んできた軌跡がある。
「自分にしかできないとか、今ここで頑張らなきゃいけないとか、もし自分がこれをやったら、これだけ多くの人が幸せになるとか。そういう環境にいないと、やっぱり人間は怠惰だから、なかなかストレッチして成長をするのが難しいと思うんですよね。だから、あえてそういうところに身を置くようにしてますよね」
目先の安定や給与だけでなく、将来の成長に照準を当てて環境を変えていくことで自分の市場価値が上がり、結果的に多くの報酬を得られたということだ。
しかし多くのビジネスパーソンは、年収が高すぎることを自覚すると、つい現状維持を望みがちだ。転職サイト「ビズリーチ」の調査で年収1000万円強のビジネスパーソンの52%が「リストラに対して不安を持ちながら仕事している」と回答したのも、そういう姿勢の表れだろう。
リストラされたら今の年収は維持できないと、いまの会社に強くしがみつくのか。高報酬に満足し、成長スピードを止めるのか。それとも「インフレ」を感じたら、自ら進んで環境を変えるのか。森川氏は、後者の発想で大きな果実を得た。労働市場における自分の価値を高める大きなヒントになるのではないか。
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