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介護サービスの成長性は確実。「現場」以外にも色々な可能性がある――日本介護福祉グループ代表・藤田英明氏に聞く

2014年09月15日 12:40  キャリコネニュース

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外食や小売、建築などの業界で、景気回復に伴う人手不足が深刻になっている。各社は人集めのために待遇改善を図るなど工夫をこらしているが、国の介護保険制度に組み込まれている介護業界は、事業者だけの努力では困難という声もある。

その一方で、さらなる高齢化の進展は確実だ。そんな中で、介護業界はどのような形で変化する可能性があるのか。介護・デイサービスのフランチャイズ「茶話本舗」を運営する日本介護福祉グループ代表の藤田英明氏に、業界の可能性や見通しを聞いてみた。

若者は必ずしも「介護の現場」で働かなくてもいい

――介護業界が人手不足に苦心している、という話をよく耳にします

藤田 幸い私たちの会社では、求人を出せば人が来る状況なんですが、業界全体としては圧倒的に人手不足です。高齢化が急速に進んでいますし、事業所も増えています。2025年には100万人の介護スタッフが不足するという話もあります。

ただ、この100万人をすべて現役世代がカバーしなければならないのかというと、私はそうは思いません。65歳でも元気に働ける高齢者はたくさんいますし、外国人労働者を含めたベストミックスで考えていくべきでしょう。

――離職率が年10%程度で、特に若者が介護現場に定着しないのだとか

藤田 国が来年度に介護報酬の引き上げを検討しており、待遇改善が図られる可能性はあります。しかし私は、若者は必ずしも介護の現場で働かなくてもいいと思います。

業界の人間がこう言うのも語弊があるのですが、高齢者介護の仕事は新しい価値を生み出すものではありません。せっかくの若者が労働集約型の現場で過ごすことは、もったいないと思うところもあります。ルーティンワークではなく、脳みそを使うクリエイティブな仕事をして欲しいと思うのです。

――介護の現場には若い人が必要ない、ということではないのですね

藤田 そういうわけではありませんが、若いからといっても必ずしもうまくいくわけではない部分もあるのです。私も22歳からこの世界で働き始めて分かったことなのですが、介護サービスとひと口で言っても、いくつかの種類があります。

例えば「特別養護老人ホーム」の施設介護では、お年寄りの数も多いですし、車椅子に乗せたりベッドに寝かせたり、トイレや入浴の介助をしたりということで、力仕事が多いのです。こういう場所では、体力のある若い人が求められるのは事実です。

介護の現場も「適材適所」。中高年が向いている仕事もある

藤田 一方、「訪問介護サービス」は高齢者とのマンツーマンの仕事で、対人能力が求められます。そうすると、人生経験豊富でトーク力のある中高年の方が向いていたりするわけで、ここに無理やり若い人を投じても、なかなかうまくやっていけないこともあります。

また、施設へ通っていただく「デイサービス」では、レクリエーションの運営能力が求められます。ここでも、お年寄りを楽しませるエンターテイメント性が必要ですから、それに向いた元気な高齢者にやってもらってもいいということになります。

――「人手が足りないから誰でもいい」ではなく、適材適所が求められるわけですね

藤田 高齢者が歩んできた人生は1人ひとり違い、それに合わせた介護サービスは創造的な仕事ではあります。とはいえ、介護の現場は介護報酬が支払われる労働集約型の仕事ということは同じなので、おのずと収入にも限界が生じます。

しかし介護事業者として独立・起業したり、介護事業者を対象とした周辺事業の会社で働くなどして貢献できれば、クリエイティブな仕事もできるし、家庭を持てるくらいの高い収入を期待することもできます。

特に介護の現場は、体力は使うし、精神的なストレスが掛かるのも事実です。この問題をテクノロジーで解決する機器の開発は非常に期待されているのですが、若い人にはこのような領域にぜひ携わってもらいたいと思います。

――介護サービスに「テクノロジー」というと、意外な印象を受けます

藤田 車いすやベッド、トイレやリフト、入浴用品などはもちろんですが、それ以外にも開発の余地がまだまだあります。先日、千葉工大の学生ベンチャーが開発していたのは、においセンサーで排泄を感知する「非接触型尿検知器」でした。

また、スポーツの分野では、腕にバンドを巻くことでその人のストレスや疲労度を計測できる機器が研究されています。このような機器を高齢者や介護スタッフが使うことで、ストレスを適切に管理する研究などは、もっと進んでいいのではないでしょうか。

「介護とは、特別に心優しい人たちが献身的に行うもの」とだけ捉えていては、スタッフの大幅増員には応えることができません。テクノロジーが助けてくれる、気づかせてくれることを利用することは、今後の大きな課題となります。

若者が「新しい仕事」を作らずに誰がやるのか

――介護事業者として独立・起業する道もあるのですね

藤田 今後はサービス事業者も増えていくわけですから、若い人たちには現場で働くだけでなく、介護事業者の経営者として起業するという道も開かれています。私たちの「茶話本舗」でも、現場の仕事からスタートして1年半で施設長になり、エリアマネージャーや課長になるキャリアパスを描き、若者たちの独立を後押ししています。

さらに、高齢化の動きは日本だけでなく、中国や韓国、それから近代化が進む東南アジアの各国でも必ず起こってくることです。その中でも、超高齢化社会を先取りした日本の介護サービスの技術は非常に高いレベルで洗練されていますので、世界が欲しがっています。

今後は英語や外国語がしゃべれて、現地の人たちにサービスを教えることのできる人たちが求められるでしょう。また、現場サービスだけでなく、介護システムごと海外に輸出することも十分考えられます。

――若者の働き方としては、介護以外の分野でも言えることですね

藤田 すでに日本でも起業する人が増えつつありますが、それでも大企業で決まった路線の仕事をしたがる若い人が多いのが現状でしょう。しかし頭の柔軟な若者たちが新しい仕事を作り出さずに、この国で誰がやるのでしょうか。

私たち「茶話本舗」も、「特養に申し込んだけど5年先になると言われた」「ショートステイを申し込んだけど6か月先になるそう」「家族が虐待しているから緊急避難的に預かってくれませんか」といった切実な声に触れるたび、これに対応するにはどうすればいいのか、と知恵を絞ってきました。

従来の介護サービスの狭間でケアされていなかった人たちを対象としてきたわけですが、私たちの事業を取り巻く規制にも変化の兆しが見られます。しかしこれからも、あくまでも利用者のニーズや期待に応えられるようなサービスを追求していくつもりです。

【プロフィール】藤田英明氏 株式会社日本介護福祉グループ代表取締役会長。1975年生まれ。明治学院大学社会学部を卒業後、社会福祉施設で介護業務や相談員業務、経営などに携わり、2004年に夜間対応型の小規模デイサービス施設を開設し独立。07年から夜間対応型の小規模デイサービス「茶話本舗(さわほんぽ)」をフランチャイズ化し、14年7月末現在で808事業所を全国展開している。著書に『社会保障大国日本VER.1』(幻冬舎ルネッサンス刊)。

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