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フォーミュラE開幕戦 北京:亜久里と琢磨「楽しかった」

2014年09月14日 08:40  AUTOSPORT web

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フォーミュラE開幕戦 北京:レース後の佐藤琢磨
2008年のスーパーアグリF1以来、6年ぶりに同じチームで仕事をした鈴木亜久里と佐藤琢磨。レース後の表情は、揃って明るかった。

「(イベント自体は)思ったより全然良かったね。バトルもあったし、テレビで観ていても、迫力あったと思うよ。みんなガンガンに行ってたし、面白かった」と亜久里が語れば、琢磨も「めちゃくちゃ楽しめましたね。どんなレースになるか分からないという緊張感はありつつも、リラックスしてスタートできたし、なかなかエキサイティングでした」とフォーミュラE最初のレースを評価した。


 事前から上位チームとの差があるのは明らかだった。アウディ・アプトやe.ダムスは、メーカーのワークスに近い存在。そのため、様々なシミュレーションを事前に行うリソースがある。しかし、アムリン・アグリはプライベーターであるため、エネルギーのマネジメントなど、上位に遅れを取っている部分が正直ある。

 とはいえ、アムリン・アグリの出だしは、非常に幸先の良いモノとなった。金曜日に急遽行われることになったシェイクダウンセッションで、琢磨はトップタイムを記録したのだ。

「みなさんがSCに頭を抑えられていたのに、僕は出るタイミングが遅れて、ノビノビと走ることができたからです。だから、いきなりペナルティをもらいましたよ」

 琢磨に与えられたペナルティとは、シェイクダウンセッションで2台めのマシンは走らせるのが許されなかったこと。土曜日の公式セッションには、ほぼ影響のないものだった。

 土曜日早朝から公式セッションがスタート。急遽の“琢磨参戦”発表だったにも関わらず、日の丸を掲げたり、スーパーアグリF1のチームシャツを着た日本人ファンが、多くサーキットに集まった。しかし、やはり上位との差は大きく、FP1では3.5秒、FP2では7.1秒も上位から離される結果になる。

 鈴木亜久里は「とりあえず今回は初戦なんで、壊さないように、完走できればいいと思います。なかなか難しいよ。上位は色々とシミュレーションしてきているんで、そういう部分はこれから勉強だね」と語るも、表情は至って明るい。

 佐藤琢磨は予選グループ2で出走。ターン9でのミスや、シャルル・ピック(アンドレッティ)に進路を塞がれる不運もあり、トップがら1.9秒遅れの14位に終わる。

「まあ、こんなもんですかね。準備も不足してるし、技術的な問題も出ていたので、うまくまとめられなかったという部分もありますね。決勝はどこまでできるか分からないですけど、楽しくやってきます」

 琢磨からはとにかく楽しんでレースに臨んでいる、そんな雰囲気を感じることができた。

 レースがスタート。琢磨は1コーナーの接戦をうまくすり抜けるが、2コーナーでブルーノ・セナと軽く接触し、セナがリタイアしてしまうこととなる。

 ただ、琢磨のマシンにダメージはなく、そのままレースを続行。ネルソン・ピケJrらとバトルをしながら、周回を進めていく。しかし10周目、突如琢磨のマシンが1コーナーの先でストップしてしまう。

「電気系のトラブルです。回路のどこかに問題があって、突然止まっちゃった。電源は残っているのに、モーターにエネルギーが行かないという状態でした。何度か再起動をかけたら、モーターが回り始めたんですよね。それでまた走り出して、ピットに戻ってマシンを乗り換えました」

 実は琢磨のマシンは、レーススタート当初から無線にトラブルを抱えていた。

「無線で指示が来ないから、エネルギーの残量を自分で計算しながら走らなきゃいけないんですよ。『コレ、小数点いくつだろ?』とか考えながら。でもターゲット(予定距離を走るための電池使用量)よりはセーブできていたんで、後半に向けてペースを上げたいなと思ってました。その矢先に止まってしまったんですよね」

 しかし、マシンを乗り換えてからのペースは非常に良く、周回後れながらも、上位と遜色ないペースで走ることができた。

「そこからはレースを楽しめました。でも、最後の周でまた同じように電源が落ちてしまって……そういう意味では不完全燃焼でしたけど、チームとしては高いポテンシャルを示せたと思います。僕自身も楽しかった」

 確かに後半のペースは非常に速く、ストップする前の21周目には全体のファステストタイムを記録。チームに貴重な2ポイントをもたらした。

 レース後、鈴木亜久里は「ペースがよくなってきたところで止まっちゃったから、残念だよね。でも、ファステストラップも取れたし、悪くなかったかなと思ってます。トラブルがなければと思いますけど、クルマはまだ新しいからね。まあ、徐々にやっていきますよ」と、レースを締めくくった。

 さて、今後も佐藤琢磨はアムリン・アグリでフォーミュラEに参戦することがあるのか? 鈴木亜久里は「何戦出れるのか分からないけど、これからも一緒にやっていければいい。チームの核となってレースに出てくれたらいいなと思っています」と言う。一方琢磨本人は、「スケジュール的には難しい感じですけど、このシリーズはもっともっと成長していくだろうし、また近い将来、一緒に仕事ができたら楽しいでしょうね。開幕戦を一緒に挑戦させてもらえたというのは、僕としてはすごく嬉しかったです」と語ってくれた。

 上位との差は確かにあり、しかも複数回のトラブルに見舞われた、アムリン・アグリと佐藤琢磨のフォーミュラE初挑戦。しかし、そんな中でも、今後のこのカテゴリーへの期待感と最初のファステストラップを記録するという記念碑を得ることができた。何より、ふたりのレースを心から楽しんでいる、というのを感じさせる笑顔が、とても印象的な1日だった。

 彼らがまた共に戦う日が来るのを、期待せずにはいられない。
(F1速報)