こんな結果が待っていると、誰が想像しただろうか? 中盤以降、トップを争っていたニコラス・プロスト(e.ダムス)とニック・ハイドフェルド(ヴェンチュリ)が、最終周の最終コーナーで接触。両者はマシンを大破させ、その場にストップ。3番手を走っていたルーカス・ディ・グラッシ(アウディ・アプト)が優勝を決めた、実に劇的な幕切れだった。
予定時刻より6分遅れでフォーメーションラップがスタート。最後尾スタートのヤルノ・トゥルーリ(トゥルーリ)など、数台が出遅れたが、ピットレーンからスタートしたホー-ピン・タン(チャイナ)以外の全車が、なんとかフォーメーションラップを周回する。先導するセーフティカーのBMW i8を含め、非常にゆっくりとしたペースだ。
スタートはF1などと同じくスタンディングスタート。ブラックアウトと同時に発進する方式だ。スタートは全車が綺麗に走り出したように見えたが、最後尾のトゥルーリはまたも走り出すことができない。
今回はメディアセンターのモニターで観戦していたが、音は実に静か。スタートしたのが、ほとんど分からないほどだった。しかも、DJが手掛けるクラブ系の音楽が終始鳴り響き、サーキットの喧騒を演出している。これまでには経験したことのない、近未来的な雰囲気である。
1コーナーは全車が綺麗に抜けたが、2コーナーではいくつかの接触事故があった。中でも一番大きかったのが佐藤琢磨(アムリン・アグリ)とブルーノ・セナ(マヒンドラ)の事故。この接触で、セナはマシンを壊し、リタイアすることになってしまう。
コース上にストップしてしまったセナのマシンを撤去するために、2周目からセーフティカーが出動。このセーフティカーは3周にわたってコース上に出動する。
5周目からレースが再開されると、トップを走るプロストが、2番手のディ・グラッシを徐々に引き離していく。後方では、6周目に佐藤琢磨がネルソン・ピケJr(チャイナ)を交わして11番手に上がるも、周回後れのホー-ピン・タン(チャイナ)に詰まる格好となり、ふたたびピケJrに順位を明け渡してしまう。
琢磨を交わしたピケJrは、その後ペースを上げ、8周目にオリオール・セルビア(ドラゴン)をかわして10番手。彼らの後方には琢磨がつけていたが、10周目の1コーナーで突如琢磨のマシンがストップしてしまう。
「電気回路が不具合を起こしたみたいで、突然パワーカットされて、止まっちゃいましたね。しばらく再起動を繰り返してたらモーターが回ったので、コースに復帰したんですけど、クルマはトラブルを抱えていたので、すぐにマシンを乗り換えました」(佐藤琢磨)
トラブルを抜きにして言えば、最初にルーティーンのピットインを行なったのは、12周終了時点でのハイメ・アルグエルスアリ(ヴァージン)とステファン・サラザン(ヴェンチュリ)の2台。フォーミュラEのレギュレーションでは、1回のピットストップに1分47秒以上をかけなければならないという決まりになっている。
翌13周目終了時点で、上位勢などもピットインを行なう。“レース中にマシンを乗り換える”ということがなかなか想像できなかったが、各チーム、ドライバーとも、大きな混乱なく、ピットストップが行われた。制限の1分47秒以内でほとんどのマシンが作業を終わらせ、ガレージ内で待つほどだ。
15周目。全車がピットストップを終えると、先頭のプロストは変わらないものの、2番手にハイドフェルドがジャンプアップ。この後、ハイドフェルドは徐々に先頭との差を詰めて行き、21周目を終えた時点で1秒以内の差に迫る。
その後徐々にはふたりの差はさらに縮まり、迎えた最終ラップ、最終コーナーで事件は起こる。
ハイドフェルドがターン20でプロストのイン側に飛び込む。その前に一瞬アウト側に振ったハイドフェルドを、プロストはミラーで目視。しかし、その後見失ったのか、ハイドフェルドがインに入ったのと同時に、プロストは左へステアリングを切る。そして、両者は接触。ハイドフェルドのマシンは宙を舞い、バラバラになりながらウォールに激突。マシンは逆さまになって路面に落下する。プロストも、その場でマシンを止めている。
見た目には大きな事故だったが、幸いにもハイドフェルドは大事に至らず、自力でマシンから脱出し、プロストの元へ抗議に駆け寄った。
レース後プロストは、「僕には彼が見えなかったんだ。最終コーナーだから、非常に注意していた。あのトライには無理があると思う。オーバーテイクするスペースはないよ。彼は友達だから、アピールはしないけどね」と語っていたが、その表情からは少々困惑している様子が感じられた。
一方のハイドフェルドの元には、フォーミュラE CEOのアレハンドロ・アガグやブルーノ・セナ、そして多くのファンが訪れ、慰めていた。表情からは「まあ仕方ないよ」といった雰囲気が感じられたが、さすがに肩を落とした様子だった。ガレージに戻ってきたマシンは、それは酷い有様で、これでよく無事だったと思わずにはいられないほどだ。
ふたりのストップにより、フォーミュラEの記念すべき最初のウイナーとなったのは、3番手を走っていたディ・グラッシ。まさかの優勝に、表彰台で喜びを爆発させた。以下、2位にフランク・モンタニー(アンドレッティ)、3位にサム・バード(ヴァージン)が入っている(※レース後、3位でチェッカーをくぐったアプトはペナルティにより、10位に降格となっている)。佐藤琢磨は終盤良いペースで走行したものの、結局DNF扱いで終わっている。ただ、自身の最終ラップにファステストタイムを叩き出し、貴重な2ポイントを獲得した。
(F1速報)