ベルギーGPに小林可夢偉に代わってケータハムから参戦し、F1デビューを飾ったアンドレ・ロッテラー。9月13日に開幕した全日本選手権スーパーフォーミュラ第5戦オートポリスでは、ふたたびPETRONAS TOM'Sの36号車のコクピットに戻ることとなったが、そんなロッテラーにF1参戦の経緯と、スーパーフォーミュラ復帰の感想を聞いた。
ロッテラーはかつてジャガーF1のテストドライバーを務めた後、日本でスーパーGT、スーパーフォーミュラに参戦しキャリアを積み、一方でWEC世界耐久選手権にはアウディから参戦し、ル・マン24時間を制覇。F1とは少し遠い存在となっていたが、急転直下ベルギーGPに参戦。決勝では0周リタイアとなったものの、その高い能力をみせつけた。
F1への参戦はベルギーGPに留まり、ロッテラーは再び来日。13日に開幕したスーパーフォーミュラ第5戦オートポリスで、再びSF14・トヨタのコクピットに収まった。フリー走行では1分26秒台という驚異的なタイムをマークした後、ロッテラーにF1参戦の経緯を聞いた。
●ホームだからこそ決めたF1出場
「ケータハムは新オーナーになったんだけど、僕が初めてル・マンに出た2009年の時から知っている間柄だったんだ。彼らは僕を信頼してくれていて、いいレースをしたがっていたんだ。そこで僕にF1に出るチャンスをくれた。それが最初だよ」とF1参戦について語ったロッテラー。
「僕はアウディでレースをしていて、スーパーフォーミュラにも出ていてその環境に満足していたんだ。だからF1のことはもうすっかり意識はしていなかった。それにこの時は、スーパーフォーミュラのもてぎ戦があったんだ。だから、日本の僕の父親と言える存在である舘(信秀・PETRONAS TOM'S代表)さんに最初に相談したんだ」
「舘さんは『何も言わない。君に任せる』と理解してくれたんだ。こういうチャンスは二度とないと思っていたので、F1に出ることに決めた。僕はドイツ国籍だけど、2歳からベルギーに住んでいたから、スパはホームコースだった。だから出場を決めたんだ」
スパ-フランコルシャンに到着したロッテラーは、多くのF1メディアから取材を受けた。「F1は全然違う世界で、最初に聞かれたのは『君は何者だい?』だったね(笑)」とロッテラーは笑う。
「最初に僕がF1に出ると発表された時に、16歳のマックス・フェルスタッペンがF1に参戦すると発表されたんだけど、『32歳でのF1デビューだね』とか『ドイツ人のル・マンウイナー」とかいろんな言われ方をしたよ」
「それに『プラクティスもなしに良くデビューする気になったね』とも言われた。でも、僕はいろんな経験も持っているし、スーパーフォーミュラという、ヘタするとケータハムよりも速いかもしれない(笑)クルマでの経験もあると彼らに言ってきたよ」
「今回、僕がF1に出るにあたってすごくプレッシャーだったんだけど、スーパーフォーミュラに出ているドライバーたち、それにWECの仲間たちが応援してくれていたんだ。だから彼らを代表して頑張らなければならないと思ったんだ」
●SF14は世界最高のフォーミュラカー
今回、ロッテラーはF1を経験したことによって、1シーズンのうちにケータハムCT05・ルノー、SF14・トヨタ、WECのアウディR18 e-トロン・クワトロという異なるマシンを経験した。では、これらのマシンはロッテラーにとってどう感じたのだろうか。
「それにスパ24時間で乗ったアウディR8 LMSウルトラもあるよ(笑)。GT3、スーパーフォーミュラ、F1、それにLMP1だからね。昔はF1に出ながらグループCに乗っていたドライバーも多かったけど、今では僕みたいにこんなに乗っているのは珍しいよね。光栄なことだと思う」
「僕はいつも、クルマのピュアな部分を感じたいと思っているんだ。アウディで乗るLMP1はすごくチャレンジングだし、美しいよね。素晴らしい挑戦だと思うし、何度挑戦しても飽きない。いろんな人がずっと長い間ル・マン24時間に挑戦しているし、僕も何度も勝ったけど、その感覚は忘れられないものだよ」
「日本ではスーパーフォーミュラに出ているけど、世界でも最高のフォーミュラだ。スーパーフォーミュラより速いマシンは今はないと思う。コーナリングスピードでもタイヤのグリップでもね。F1も何年か前はそういう部分もあったと思うけど、今はスーパーフォーミュラよりもパワーがあって直線は速いけど、コーナーではあまり楽しさを感じることはできなかった」
「ケータハムからはモンツァにも出てほしいというオファーはあったよ。でも僕の中ではスパを走ることが目標だったし、モンツァに出ることはプラスになるとは思わなかった。F1は楽しませてもらったからね。満足しているよ」
●「もっとSFにパワーがあれば……」
F1経験を終え、スーパーフォーミュラというフィールドに戻ったロッテラーは、オートポリスで迎えた第5戦のフリー走行で、いきなり1分26秒台というタイムをマーク。23年もの長きにわたって破られていなかった、ジャガーXJR14のレコードタイムをブレイクした。では、SF14のコクピットに戻った感想はどんなものだっただろうか?
「素晴らしいよ(笑)。クルマのフィーリングはF1と比べてもとても良かった。もう少しパワーがあればいいのにね(笑)」
「コーナリングスピードは信じられないほど速いし、コーナーでは世界で最高のフォーミュラカーだ。それだけじゃなくて、コーナーでもすごく安心感があるんだ。こういうクルマは他にないと思う」
「F1でスパを走った時にはコーナーのグリップが本当に低くて、ラ・スルスに入る時は、900kgのLMP1でも100m看板のところでブレーキングするんだけど、F1では全然エイペックスにつけなかった。もちろんF1は300km/h以上出てパワーはあるんだけど、コーナリングは全然違ったよ」
「オートポリスはいいレーストラックだし、新舗装になってからはなお良くなっていると思う。高いコーナリングスピードを保たなければならないし、高速コーナーなんかはSF14に合っている。本当に楽しいよ。今朝の走行でもいいタイムを出せたと思うし、週末が楽しみだね!」