日本で暮らしていると意識しないが、世界では7億8000万もの人が安全な水を手に入れることができていないという。モルディブでは近年開発が進んで地下水が塩水になってしまい、バングラデシュでは土壌の多くにヒ素が含まれ地下水が汚染されている。
2014年9月8日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、日本の企業が安全な水づくりに尽力しつつ、水ビジネスを展開している様子を伝えた。
モルディブで「海水淡水化」進める日立
インド洋に浮かぶ島国モルディブは、海抜わずか1.5メートル。日本のODAによって島を囲むように防波堤が築かれている。美しい海に囲まれてはいるが、池や河川はなく飲み水は地下水に頼ってきた。
しかし、首都のマレは皇居ほどの土地に10万人がひしめく世界一の人口過密都市。使いすぎで地下水が枯渇し、井戸水に海水が混じるようになってしまった。
この問題解決に4年前から動きだしているのが日立製作所だ。モルディブ国営水道会社とともに、地下の塩水を真水に変える「海水淡水化」事業を行っている。
逆浸透膜という高度なろ過技術により、モルディブの家庭では水道からの水がそのまま飲めるようになり、水産加工業にも必需品になっていた。さらにこの水をボトルウォーターにして、真水のない地域に売っている。
日立の水事業責任者、インフラシステムグループの横山彰さんは「都市化が進めば淡水は足りなくなっていく。海水淡水化は人類が生きていくためにどうしても必要な技術」と語る。
設備を売っているだけではなく、水道事業の運営にも参加し、独自のITシステムで水道網を管理していた。横山さんはその理由をこう説明する。
「日本の場合は、地方自治体が(水道)運営のノウハウを持っている。一緒にやらなければ全体を把握できない。そういう意味で、出資して一緒にやらせてもらうのは、てっとり早くノウハウを吸収する手段だ」
元保健所職員がバングラデシュで「社会起業」
さらに日立は、新たな水プロジェクトとして、水深800メートルの深海から海洋深層水をとりだし淡水化、飲み水にするという。
横山さんは「20カ国110都市ぐらい優先順位をつけ、その一番はモルディブ。次々拡大していきたい」と語り、これらの活動を足掛かりに、日立は水ビジネスの世界展開を目指していることを明かした。
バングラデシュの農村部では、ヒ素に汚染された井戸水を長年飲んでいた人々が、手の発疹などヒ素中毒に苦しんでいた。元東京都墨田区の保健所職員だった村瀬誠さんは、バングラデシュの農村部に「雨水をためる」という方法で安全な水を届けている。
大気汚染のない農村では、雨水に含まれる不純物は井戸水の50分の1、東京の水道水と比べても10分の1だという。1000リットル溜められる専用の水瓶を販売している。
「(ボランティアによる)寄与方式には限界がある。ソーシャルビジネスの手法を使って社会を変えていくことが必要」
そう話す村瀬さんは、定年退職後の2010年から会社を立ち上げ、地域の雇用も生み出している。地元の人々は水汲みの重労働から解放され、ヒ素中毒もやわらいだと喜んでいる。
フィリピンでは水質が悪化したマニラ郊外の街に、山梨にある中小企業・明和工業の輿水博さんが訪れた。独自に開発したろ過装置を通した水を現地の人に飲んでもらうと「薬の味がしない。優しい味」と大好評。ここで水の販売所を作り、将来的にはろ過装置を売る計画だ。
期待される「地方自治体」のノウハウ提供
「水ビジネス 110兆円水市場の攻防」(角川oneテーマ21)の著書がある吉村和就氏の解説によると、水ビジネスの市場規模は2025年には現在の60兆円から110兆円にもなる。そこには日本が狙うアジア市場の30兆円も含まれているが、ライバルとしてシンガポールや韓国が国をあげて水ビジネスに取り組んでいるそうだ。
今後日本が世界で勝つためには、地方自治体のノウハウと民間の技術で「官民一体」となって取り組んでいく必要があるという。吉村氏は「ジャパン・イニシアチブ(日本主導)」で、「現地の人に必ず産業とお金が回るようにしていく」ことが重要だと説いた。
今回見た「貢献しつつ水ビジネスにつなげている」人々には、ボランティアで終わらせないという共通した思いがあり、だからこそ人々の役に立ち続けている自負があるように感じた。あとは水整備ノウハウを持った「官」の協力を望むばかりだ。(ライター:okei)
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