2014年09月10日 18:01 弁護士ドットコム
預かった2歳の女の子が食事を嫌がったため、叩いたり、無理やり食べものを口に入れたりしたとして、30代の女性保育士が8月下旬、千葉県警に逮捕された。
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報道によると、保育士は今年7月中旬、勤務先の認可外保育施設で、食べるのを嫌がった2歳の女の子を平手でたたいたうえで、食べものを口に詰め込んだり、「食べろって言ってんだよ!」とすごんだりしたとして、「強要罪」の疑いがもたれている。保育士は、食べものを口に詰め込んだことは認めたものの、「叩いたのは覚えていない」と話しているという。
ただ、しつけとして、小さな子どもを叱りつけて食事をさせるのは、一般家庭でもよくある光景のひとつだ。どこまでやると、「強要罪」になってしまうのだろうか。刑事事件にくわしい徳永博久弁護士に聞いた。
「強要罪は、暴力を用いたり、脅かしたうえで、相手に何ら義務のないことを強制すると成立する犯罪です」
このように徳永弁護士は切り出した。
「もっとも、多少強引なやり方で相手に義務のないことを強制したからといって、すべてが強要罪になるわけではありません」
強制しても「セーフ」というのは、たとえばどんなケースだろうか?
「たとえば、警察官が痴漢やスリの現行犯をその場で取り押さえ連行する行為は、刑事訴訟法で認められています。また、プロレスラーがリング上で相手を組み伏せる行為は、スポーツ興行という正当な業務とされています。
このように、法律に基づいた行為や、正当な業務の一環である行為には違法性がなく、強要罪は成立しません」
それでは、親や保育士が、子どもを叱りつけて、食事をさせることはどうだろうか?
「しつけや教育・保育の一環として子どもを叱ることは、親や保育士の正当な行為と見なされています。
しかし、しつけにも限度があって、やり方しだいでは『正当なしつけの範囲外』として、違法行為になり得るのです。
2歳の女の子を叩いたり、その口の中に食べ物を無理やり詰め込んだり、すごんだりすれば、その程度によっては『正当なしつけの範囲外』と見なされます。
今回、保育士が逮捕されたのは、『正当なしつけの範囲外の行為をした』という疑いがあると、捜査機関が認めたからでしょう」
徳永弁護士はこのように指摘していた。
いくらしつけといっても、「超えてはいけない一線」があるということだ。嫌がる子どもに食事をさせるのは簡単ではないが、そこは大人のほうが我慢しなければならないポイントなのだろう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/