メルセデスのふたりのドライバーによる主導権争い。ベルギーでの接触についてミーティングが開かれ、決着宣言が出されたあと迎えたF1イタリアGPをルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグはどのような気持ちで戦っていたのか。レース中の無線、そして決勝後の言葉から探る。
「レースの最後が勝負だ。だから最後までタイヤを残しておく必要がある」
レース中盤、ハミルトン担当レースエンジニアのピーター・ボニントンが無線でそう伝える。一度きりのピットストップを終え、ハミルトンは首位ロズベルグの1.8秒後方でコースに戻った。
ボニントンは、一度ペースを抑えるようにハミルトンに伝える。
「ギャップを2~2.5秒差にキープしてダウンフォースを失うことなくトウ(スリップストリーム)を使っていこう」
しかし、ハミルトンはその指示に従わなかった。レーシングドライバーとしての自身の勘を信じ、前を行くロズベルグに対して猛烈な追い上げを見せることで揺さぶりをかけていったのだ。
そして、その勘は当たった。29周目の1コーナーでロズベルグは右フロントタイヤをロックさせ、シケインを曲がりきることをあきらめてオーバーシュート。ここで激しくロックさせてフラットスポットを作ってしまっては、最後まで走り切ることはできないからだ。
ロズベルグに0.7秒差まで迫っていたハミルトンは、こうして見事に首位を奪い取った。
「あれは僕のミスじゃなくてルイスのせいだよ……というのは冗談で、とにかく後ろから迫ってきたルイスが速かったというだけのことさ。僕はペースアップしなければならなくて、その結果ミスを犯した」
レース後にロズベルグは、そう振り返った。予選でハミルトンに及ばなかった時点で勝利は厳しいと理解していた彼にとって、ダメージは最小限に食い止めることができた。レース後の表情に余裕が感じられたのは、そんな背景があったからだ。
逆に、ポールポジションを獲得しながらレーススタートモードの不具合で好発進が切れなかったハミルトンは、逆転勝利を手に入れるためにアグレッシブに行くしかなかった。
「レースのスタート発進用の手順を行うスイッチがあるんだけど、フォーメーションラップの時に機能しなかった。本番はうまく行くだろうと思ったんだけどダメで、そんな状態でのスタート練習なんてしたことがなかったから、どうしていいかわからなかった。回転数が安定しなくて、いつもどおりのスタートができなかったんだ」
ハミルトンはスタートで4位まで後退したが、ケビン・マグヌッセンとフェリペ・マッサを自力で抜き去り、ロズベルグにプレッシャーをかけてミスを誘い、勝利をもぎ取った。間違いなく、彼の執念が手繰り寄せた勝利だった。
「僕はニコをオーバーテイクするためにプッシュした。それによって勝利へのドアが開かれたんだ」
チャンピオンシップはロズベルグが22ポイントのリードを保っている。しかし、タイトル獲得のドアを開く方法を知っているのはハミルトンのほうなのかもしれない──。
(米家峰起)