小林可夢偉がF1イタリアGPの予選で19位を獲得した。今シーズンの予選最高位はQ2に進出した開幕戦オーストラリアGPの14位だから驚くべき結果ではない。だが、予選後の可夢偉は「最後のアタックはノーミス。あれ以上のタイムは出せなかった」と、ある程度満足した表情だった。1レース欠場後の復帰戦で、マルシャの2台を上回ったからである。
欠場する前のハンガリーGPでも、可夢偉は予選17位と18位に終わったマックス・チルトンを上回っている。しかし、この時もうひとりのマルシャのドライバーであるジュール・ビアンキは予選15位。なかなかビアンキの壁を打ち破ることはできなかった。可夢偉が最後に予選でビアンキに勝ったのは、第4戦中国GPまで遡る。
その後、可夢偉がビアンキに勝てなくなったのは、マルシャがスペインGP以降マシンを着実にアップデートしてきたことが大きい。ただし、それだけではなく、マルシャの予選へ向けた戦い方も関係していた。予選でビアンキに負け続けていた間も、予選直前のフリー走行3回目では何度か可夢偉のほうが速かったことがあった。そして、可夢偉はそのことを何度も指摘していた。「予選になると、ビアンキが確実にタイムを上げてくる」と。
そこで、今回ケータハムは予選でマルシアに勝つための、ある作戦を敷いた。
「金曜日からセッティングは多少、変えました。もちろんセットアップは予選ではなく、レース重視であることに変わりなかったのですが、レースに向けたセットアップに関しては、僕たちのクルマはそんなに大きな問題を抱えていたわけではなかったので、その中で予選をいかに速く走ることができるかというのが僕たちにとってのチャレンジでした」
作戦は、セッティングを予選寄りにすることだけではなく、予選のアタックのやり方にもあった。それは、2種類あるコンパウンドのうち、軟らかいほうのオプションタイヤを惜しみなく3セット投入するというものだ。レギュレーションでは予選とレースでオプション(今回はミディアムタイヤ)とプライム(今回はハードタイヤ)を3セットずつ使用できる。Q2やQ3に進出するチームなら、そのような戦い方はできないが、Q1で脱落する可能性が高いケータハムなら、Q1でオプションを3セット投入しても問題はない。
さらに今年からQ3でタイヤをセーブしないようオプションタイヤが1セット追加で供給されるようになり、それにともなってQ1とQ2で脱落したドライバーにもオプションタイヤが1セット供給されるようになった。つまり、Q1で3セットのオプションタイヤを使用しても、レースでは新品のオプションタイヤが1セット使用できるのだ。
今回、金曜日のロングランの結果から、レースは1ストップでタイヤが十分持つことがわかっているので、新品のオプションタイヤは1セットあればいい。Q1で3セットのオプションを投入するという作戦は、決して無謀な作戦ではないのである。
この作戦は、単に新品タイヤでアタックする回数が増えることだけがメリットではない。18分間のQ1で3セットのタイヤを使用するには、各セット1回だけのアタックに収めないと時間が足りなくなる。つまり、3回とも同じ状態でアタックできる。これに対して、マルシャは2セットのタイヤでアタックすることにしたため、まず1セット目のタイヤは2周連続アタックを試みて、2セット目を1アタックとしている。つまり、燃料搭載料が異なっていたのだ。結果、ビアンキは最後のアタックの最終コーナー、パラボリカでミス。可夢偉は1セット目と2セット目で徐々に限界を探って、3セット目のタイヤで、ほぼパーフェクトなアタックを行うことに成功した。
「初日はマルシャが結構遠く感じたけど、予選を終えてみたら逆転しているということは、結果的に考えたら、うまく行ったんじゃないですか。週末の流れが今回は良かった」と、可夢偉はモンツァで久しぶりに笑った。
(尾張正博)