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<すき家労働問題・上>「ワンオペは大変だね」と客に同情されたーーバイトが実態告白

2014年09月06日 10:51  弁護士ドットコム

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過酷な勤務実態が問題視されている「すき家」の労働問題。すき家を運営するゼンショーホールディングスが設置した第三者委員会は、7月末に実態調査の報告書をまとめ、社員やアルバイトたちの働く環境を改善するよう提言した。調査報告書には「月に500時間以上働いていた」「多忙で2週間家に帰れなかった」といったハードな労働実態が記載されている。


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ゼンショーホールディングスは、特に問題視された「ワンオペ」(深夜の1人勤務)を9月末で廃止することを表明しているが、現在のすき家の労働環境はどうなっているのだろうか。東京都内のある店舗で働いている大学生の男性クルー(アルバイト)に9月初め、話を聞いた。



●24時間勤務「回転」は疲労との戦い


ーーどれくらいの期間、働いているのか?



「2年以上になります。大学に通いながらシフトに入っているので、春休みや夏休みは勤務時間が長くなる傾向にあります。最近は週に3~4日働いています」



ーー働き始めたきっかけは?



「1人暮らしだったので、まかないの出る飲食店がいいと思ったのがきっかけです。近くに『すき家』の店舗があって、バランスよく食べられると思いました」



ーー過酷な勤務も多いのか?



「13時間連続勤務というのは、ひんぱんにありますね。すき家の勤務体系は、『9時~14時』『14時~18時』『18時~22時』『22時~9時』に分かれています。9時から22時まで連続で働くと、13時間勤務になります。休憩がないことも多いです。24時間連続で働く『回転』と呼ばれる勤務も、3回ほど経験したことがあります」



ーー問題が表面化した今も変わってないか?



「そうですね、つい最近も13時間連続で働きました。『ワンオペ』も普通に行われています」



ーー24時間連続で勤務しても体が持つのか?



「本当につらいです。僕の場合は午前9時にスタートして、翌日の午前9時まで働きました。1度来店した客がしばらくしてまた来店して、『まだ君いたの』と驚かれました。15時間を超えたあたりで疲労との戦いになります。最後の山場は、朝食を提供している早朝の時間帯にやってきます。朝食は値段が安くて、たくさんの客がやってくるので対応が大変です」



ーー24時間以上働いたことは?



「さすがに僕はないですね。ただ、2回転(48時間)勤務をする人はいます。2回転の場合、さすがに休憩はとりますよ。また、更衣室に寝袋があるので、18時間連続勤務をして、翌日のシフトまで4時間寝て、また働いている人もいます」



●深夜のワンオペ「トイレに行けず、休憩もできない」


ーー第三者委員会の調査報告書を読んだか?



「関心があるので、ホームページで公開されているものを読みました。周りのクルーたちは読んでないみたいですけれど、ニュースでは見ているようです。『すき家はこれからどうなるのか』と話題にのぼることがあります」



ーー調査報告書で問題になっている「ワンオペ」についてどう思うか?



「やはり深夜のワンオペは、きついものがあります。トイレにも行くことができませんし、休憩もありません。客が大量に来店した場合は、本当に大変です。たとえば、持ち帰りの注文があった商品に『入れ忘れ』があった場合、ツーオペ(2人体制)のときは、1人が届けに行くことになるのですが、ワンオペのときは店を離れられないため、マネジャー(社員)が急遽呼び出されて、届けに行くことになります。社員も大変ですよね」



ーーなぜワンオペが起きてしまうのか?



「『労時』と呼ばれる、労働者1人における1時間あたりの売上金額が指標になっているからです。売上金額が少ないと、労時を上げるために人を減らされます。労時が少ないと、もともとツーオペだったとしても、ワンオペになってしまうのです」



ーーワンオペ中に強盗被害にあったことはあるか?



「僕は経験してないですが、知っている店舗が被害にあったことがあります。ネットでは『すき家強盗』を『す強(スゴウ)』と略して揶揄されてますよね。実際、防犯対策はしてるんですけどね・・・」



ーー第三者委員会の調査報告書には、「自分も、月500時間働いてきた」など経営陣のコメントが掲載されているが、どう思ったか?



「ふざけてますよね。みんなができることではないでしょう」



●「従業員が飢餓と貧困に直面している」


ーーシフトは誰が決めているのか?



「マネジャー(社員)が決めています。やりくりを見ていると大変そうです。自分たちの店舗のクルーだけでこなせない場合は、他店からヘルプを呼ぶことになります。24時間をたった3人でまわしていたこともあって、彼らは『勇者』だと思いました」



ーー働く前に期待していた「まかない」は?



「3時間以上働いても、牛丼並盛1杯ですね。割引券はありますが、それ以上食べたければ、自腹を切って店の商品を買うしかないです。ゼンショーは『世界から飢餓と貧困を撲滅する』と言っていますが、店舗の従業員が飢餓と貧困に直面してますよ」



ーー労働組合には入っているのか?



「ZEANという組合に入ってますけど、組合から特に何か、言われたことはないですね。月に200円ほど給料から引かれて、200円分の商品割引券がもらえるだけです」



●「ブラック企業批判」以降、客が優しくなった


ーーこれだけ過酷な労働環境なのに、なぜ働き続けるのか?



「生活がかかっているからです。時給がそれなりにいいので、つらいけど何とか続けています。慣れたバイトを辞めて、新しいバイトをやろうとは思わないですね。あと実は、結構クルー同士は仲がいいんです。仲良くなれば、いろいろと助け合うこともできるようになります。つらいことも多いですが、大学を卒業するまでは続けるつもりです」



ーーブラック企業として批判されるようになってから、何か変化はあったか?



「今年の2月、ものすごく手間のかかる『牛すき鍋』が投入されてから、黒い噂が表面化しましたよね。客から『ワンオペは大変だよね』と同情されたこともあります。客が優しくなりました。大変さを分かってもらうことができて、よかったと思いますよ」



ーーワンオペはなくなるのか?



「8月の下旬に、ワンオペをやめる連絡が店舗にファクスで送られてきました。10月からやめるとのことですが、どうなるんでしょうか」



ーー今後どうなってほしいか?



「やはりワンオペはやめてほしいです。人員のやりくりは大変でしょうが、ツーオペでやるべきでしょう。ツーオペならば、深夜に働いてもいいと思う人が増えるのではないでしょうか」



インタビューを通じて、「すき家」の過酷な実態を垣間みることができた。こういった実態は、データでどう裏付けることができるのか。<すき家労働問題・下>では、第三者委員会の調査報告書に掲載された従業員アンケートの結果を紹介する。



『<すき家労働問題・下>バイトの7割「45分以上の休憩ない」データにみる過酷な実態』はこちら。


(弁護士ドットコムニュース)