「モンツァを走るのは2年ぶりだったし、今回はセッションがいつもよりひとつ少ないので、まずはコースとクルマに慣れることから始めたかった」と可夢偉。さらに、インスタレーションラップ中にパワーユニットにトラブルが見つかり、「すぐに帰ってこい」と言われピットイン。1時間半あったはずの走行時間は、1時間程度に短縮された。
それでも、可夢偉が集中力を切らすことはなかった。
「徐々にタイムを上げていくこと」を心がけていたという可夢偉。いつもはラインを変えたり、さまざまなトライをフリー走行から行う可夢偉が、F1イタリアGPでは堅実な走りに徹していた。ベルギーGPを欠場し、ハンガリーGPから1カ月以上もブランクがあったため、勘を取り戻そうとしていたのか。答えは、違った。
「モンツァは低ドラッグの空力仕様でダウンフォースがいつもより少ないマシンで走らなければならないので、タイヤが温まりにくく、ブレーキングでロックさせやすい。ここはハイスピードから一気に減速していくので、ロックさせると、タイヤにフラットスポットを作ってしまう。そうなると午後のフリー走行はオプションとプライムが1セットずつしかないので、まともなデータが取れず、自分を苦しめるだけ。だから、モンツァでは焦らず、タイムを下から徐々に上げていくイメージで走ることが大切なんです」
前日の会見で、「プロのレーシングドライバーだったら、どんな状況でも与えられた仕事はやり遂げるだけ」と語っていた可夢偉。しかし、それが簡単ではないことは、この日、多くのドライバーがコースオフしたり、ブレーキをロックさせていたことでもわかる。
前日の会見から一夜明けたこの日も、可夢偉が自分が置かれた状況に対して納得できていない気持ちを抱えている様子を、痛いほど感じた。それでも可夢偉は宣言どおり、しっかりと仕事をやり遂げた。
フリー走行2回目の順位は、トップから2.9秒遅れの21位。しかし、筆者の中ではトップタイムを出したドライバーにも負けない仕事を、この日の可夢偉はしたと思っている。
(尾張正博)