2014年09月05日 10:31 弁護士ドットコム
日本の夫婦のうち約3割が、親世代と同居しているーー。国立社会保障・人口問題研究所が8月に発表した「第5回全国家庭動向調査」で、そんな家族の実態が明らかになった。その内訳をみると、夫の親と住んでいる率が高く、なかでも「嫁と姑」が一緒に住んでいるケースが約25%と、最も多かった。
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たしかに「嫁姑問題」は、ネットでもひんぱんに書き込みを目にする定番のトラブルだ。ある掲示板をみると、「姑から毎日のように罵声を浴びせられて精神を病んでしまった」という深刻なケースもあった。
入籍すると同時に夫の両親と同居を始めたという嫁のAさんは、姑から「掃除機を使うな」「足音がうるさい」「朝はご飯に決まっている」などと、ことあるごとに言いがかりをつけられ、精神を病んでしまったのだという。Aさんはたまらず別居したが、それでも姑が反省しないので、慰謝料を請求したいと考えたようだ。
このように、姑の暴言で傷つけられた場合、裁判に訴えて、姑から慰謝料をもらうことはできるのだろうか。身近な暮らしの法律問題にくわしい須山幸一郎弁護士に聞いた。
「姑からいじめをうけて、精神的に病んでしまったというAさんの、『姑に慰謝料を請求したい』というお気持ちは充分に理解できます。
しかし、精神的苦痛が生じたからといって、必ず慰謝料が取れるわけではありません」
須山弁護士はこう指摘する。それはなぜだろうか。
「慰謝料とは、違法な行為(不法行為)を行った人が、それによって精神的苦痛を受けた人に対して支払う賠償金のことをいいます。
したがって、姑への慰謝料請求が認められるためには、姑の行為が『不法行為』と認定されなければなりません」
不法行為かどうかは、どうやって見極められるのだろうか。
「『いじめ』と一口にいっても様々な態様・程度があり、Aさんには『いじめ』と感じられるようなことであっても、別の人にはそう感じられない場合もあります。
したがって、Aさんが姑から『いじめ』を受けたと感じたからといって、直ちに慰謝料請求が認められるとは断言できないのです。
つまり、不法行為と認められるためには、Aさんに対する姑の言動や行動が、誰から見ても常識的な範囲を逸脱しており、客観的に『違法ないじめ行為』といえる必要があるのです」
「さらにAさんは訴えを起こす側ですから、その『違法ないじめ行為』があったと、自ら裁判で証明できなければ、慰謝料請求は認められません。つまり、Aさんが姑の『違法ないじめ行為』を立証できなければ、訴訟を起こしても負けてしまうということです」
裁判で「姑に違法ないじめ行為を受けた」と立証するためには、どんなことをすればいいのだろうか。
「今回のケースは家庭内の事情ですので、身内以外の第三者が証言してくれることは期待できないでしょう。ところが実際のところ、身内の証言だけでは、裁判官が不法行為の存在を認定してくれる可能性は低いと言えます。
そこで、訴訟提起をお考えなら、日ごろから録音や撮影、日記への記録等、客観的な証拠を集めておくことが重要です。手元にこうした客観的な証拠がなければ、慰謝料請求は難しいでしょう」
不幸にも、姑からいじめを受けてしまった場合、それを心の傷として残すのではなく、目に見える証拠として残しておくべきだといえそうだ。そうなれば、いざというとき、自分を守る材料になるかもしれない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
須山 幸一郎(すやま・こういちろう)弁護士
2002年弁護士登録。兵庫県弁護士会。神戸家裁非常勤裁判官(家事調停官)。三宮の旧居留地に事務所を構え、主に一般市民の方を対象に、法律相談(離婚・男女問題、相続・遺言・遺産分割、借金問題・債務整理等)を行っている。
事務所名:かがやき法律事務所
事務所URL:http://www.kagayaki-law.jp/