2014年09月04日 16:41 弁護士ドットコム
フランス南西部のリゾート地、カップ・フェレにあるレストランを酷評したブロガーが、店のオーナーに訴えられ、約21万円の損害賠償を支払うはめになったというニュースが8月、日本でも話題を呼んだ。
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BBCによると、問題のブログ記事は、ブロガー本人がそのレストランで食事をしたときの経験を書いたもの。店名を名指しして、「カップ・フェレで避けるべき店」というストレートなタイトルが付けられていた。
このブログは固定読者が3000人もいたため、レストランの名前をGoogle検索すると、その記事が上位に表示されることになっていた。フランスの裁判所が、このブログ記事を「営業妨害にあたる」と判断した背景には、こうした影響力の大きさもあったようだ。
一方で、日本の飲食店口コミサイトを見ると、「美味しくない」「サービス0点」「もう二度と行くことはない」といった批判は少なくない。日本でもこうした口コミを書き込んだら、店から訴えられる可能性があるのだろうか。石井邦尚弁護士に聞いた。
「今回は、ネットの口コミサイトに『まずい』など批判的な書き込みをした場合に、店から訴えられる法的リスクについて、考えてみましょう。
そうした行為は、『名誉毀損』にあたる可能性があります。名誉毀損とは、ひとことでいうと、他人(企業)の社会的評価を低下させる行為です。
ただし、自由な意見を表明することは、表現の自由として保護されるべきです。飲食店や企業のサービス等について、マイナスの評価を一切口にできないのは、明らかにおかしな社会と言えます。
そこで、社会的評価を低下させる表現でも、一定の条件に当てはまるなら、名誉毀損にならない(違法ではない)とされています」
では、どういう書き込みが「アウト」なのだろうか?
「一番注意すべき点は、ウソや憶測を書くのはダメということです。たとえば、『メニューには和牛と書かれているのに、実際はアメリカ産牛肉を使っている』と書きこむ場合、最低でも、そう推測できるかなり具体的な事実・証拠に基づいて書かないと、名誉毀損になってしまいます」
それでは、口コミとして、「私は、あのお店の料理をまずいと思った」といった意見を表明することはどうだろうか?
「飲食店について、個人的な意見や論評を述べる際に、ポイントとなるのは次の3点です。
(1)公益を図る目的があるか
(2)意見・論評が前提とした事実が、主要な部分について、真実だと証明があるか、真実と信じたことに相当な理由があるか
(3)人格攻撃などのように、論評を逸脱した表現になっていないか」
飲食店の口コミを書き込むことは、(1)公益目的と言えるのだろうか?
「実際に飲食店に行った人の感想は、他の人にとって、非常に参考になります。したがって、『公益を図る目的』ということができます。
しかし、たとえば、ライバル店の評判を落とそうとして、あえて『まずい』と書き込むことは、公益目的とは言えませんから、名誉毀損が成立するでしょう」
(2)と(3)はどうだろうか。
「(2)は、間違った事実に基づく論評はダメだということですが、『美味しくない』といった意見・論評は主観的なものですので、単に『まずい』というだけなら問題となりにくいですね。
気をつけるべきなのは(3)で、実際に『まずい』『サービスが悪い』と感じたからといって、あまりに過激な表現をすれば、『論評を逸脱した表現』として、名誉毀損にあたると判断される可能性があります。
ネット上の発言は、かなり過激にエスカレートしてしまうこともあるので、注意が必要です」
それでは、注意点をまとめると・・・。
石井弁護士は「正直に書くことはもちろん、書き込んだ内容に勘違いがないか、きちんと確認すること。そして、あまりに過激な表現にならないよう、注意することが大切です」と指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
石井 邦尚(いしい・くにひさ)弁護士
1972年生まれ。専門は企業法務。
小5ではじめてコンピュータを知ったときの驚きと興奮が忘れられず、IT好きがこうじて、IT関連の法務を特に専門としている。著書に「ビジネスマンと法律実務家のためのIT法入門」(民事法研究会)など。東京大学法学部卒、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)卒
ブログ「企業法務の基本形! IT法務の未来形!!」:http://www.blog.kakuilaw.jp/
事務所名:カクイ法律事務所
事務所URL:http://www.kakuilaw.jp