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スーパーGT:鈴鹿で分かれたGT500クラスの戦略。正解は4ストップか、5ストップか

2014年09月03日 14:20  AUTOSPORT web

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スーパーGT第6戦インターナショナル鈴鹿のスタートシーン
31日、1000kmという長丁場のレースが展開されたスーパーGT第6戦インターナショナル鈴鹿1000km。GT500クラスはコース各所でバトルが展開されるような、見た目に派手なレースではなかったが、各陣営の作戦を見比べると非常に濃密なレースとなった。分かれた戦略の舞台裏を見てみよう。

 4か。5か。正解はチームによっては5でもあり、4でもある。

 今季ニューマシンが導入されたスーパーGT500クラスにおいて、長丁場の鈴鹿1000kmはある意味、未知との戦いだった。マシンにとってもタイヤにとっても1000kmというレースは経験がなく、また耐久レースでは必須と言える燃費とペースとの兼ね合いも、計算上は成立していても実際にそれを完遂するまでは多くの困難が伴う。今回、レース前から検討を重ねていた作戦を最もうまく成功させ、“正解”だったのが、速いペースを保ち、5ストップを行ったウイナーのPETRONAS TOM'S RC Fだったと言えるだろう。

 今季のGT500マシンは、ウエイトハンデが50kgを超えると燃料流量リストリクターでウエイト分を換算。流量が絞られることになる。当然ストレートスピードに大きな影響を及ぼすが、一方で燃費が楽になる。そこで考えられたのが4ストップ5スティント作戦を採るか、5ストップ6スティント作戦を採るかだ(ちなみに、今回GT300ではほとんどの車両が4ストップ5スティントだった)。

 各陣営がどんな作戦を採るのかは最終的にレースが始まってみるまでは分からなかったが、レースが始まるとその差が如実に出はじめた。トラブルが出たマシンをのぞくと、5ストップのマシンは25~29周あたりでピットへ。4ストップのマシンは32~34周あたりで相次いでピットに向かった。

 最終的な結果からみると、もともと5ストップを選んでいたのはPETRONAS TOM'S RC F、DENSO KOBELCO SARD RC Fといったところ。4ストップを選んでいたのはMOTUL AUTECH GT-R、ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT、KEIHIN NSX CONCEPT-GT、カルソニックIMPUL GT-R、ENEOS SUSTINA RC Fといったところ。このうち4ストップを結果に結びつけたのは2位のMOTUL AUTECH GT-R、5位のENEOS SUSTINA RC Fといったところだろうか。

「えっ!? 3位のウイダーは5ストップしたでしょ?」とツッコんだ方はしっかりとレースを見ていられた方。実際、ウイダーは5ストップ勢よりも1回目のピットが早く、最終的には5回ピットに入った。ただ予選後、山本尚貴に作戦を聞いたときに「明日まで書かないでくださいね」と言われながら教えてもらったのは『4ストップ』だったのだ。ではなぜ作戦を変えたのだろうか?

「僕のスティントの16周目くらいからスローパンクチャーしてしまって。内圧が下がってしまって、走っていて問題はなかったんですが怖かったので、5スティントに切り替えました。途中もう少し燃費が良ければ4にもできたんですが、思ったよりタイヤの摩耗が激しくて。4にしていたら途中でもう一度入っていたかもしれない」と山本はレース後語った。

「でも、最終的に終わってみれば5で良かったと思います。不運もあったけど、運もありました。1000kmらしいレースになったと思いますね。タイに向けていい弾みになりました」

 一方、2位に入ったMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生も「こんなにタイヤがキツいと思わなかった」という。MOTULはレース前半ハードタイヤを装着したウイダーと異なり、ずっとミディアムタイヤで戦っていた。

「ロニーがちょっと燃費が厳しかったので僕が長く走ったんですが、燃リスが絞られている上にミクスチャーをリーンにしていたので、正直つらかったです(苦笑)。終わってみれば5ストップでも良かったのかな……」という。

「でもウエイトのことを考えたら、2位は変わらなかったかな。それよりもいちばん大きかったのはしっかり完走できたことだし、チームも僕もロニーもミスがなかった。それがすごく良かった」と松田。

 ちなみに、MOTULは燃料流量リストリクターを絞られているマシンだが、「ストレートは苦しいけど、クルマの速さはストレートだけじゃなくコーナーも大事だからね。コーナーでの動きは本当にいい。オートポリスくらいからかな? セットが良くなっていて、きちんとベースが決まっている(ロニー・クインタレッリ)」というハンデを感じさせない速さをもっている。速さ、チーム力、ドライバー力が燃リスダウンのハンデを味方につけて成し遂げた作戦遂行だった。

 4ストップを完遂したチームは、やはりMOTULのように燃リスダウンのハンデを負ったマシンが多かった。5位に食い込んだENEOS SUSTINA RC Fも、ドライバーやチームが状況の中でベストを尽くし、望みうる最大のリザルトを得たと言えるだろう。

 ただ、燃リスダウンのハンデを負っていないながらも4ストップを選択していたチームもあった。ARTA NSX CONCEPT-GTやKEIHIN NSX CONCEPT-GTがそうだが、ARTAは想定よりも燃費が悪く燃料が足りなくなり1回ピットを追加。一方で、KEIHINはクラッシュによりリタイアを喫してしまったが、コース上でみせていた速さを考えると、PETRONAS RC Fに対抗しうる1台だったと言っていいだろう。

「もともと4ストップで考えていて、なんとか見積もりがたったかな……というところでのクラッシュでした。計算上は厳しいしギリギリだったんですけど、それまではドライバーが頑張ってくれた」というのは、KEIHINの大神槙也エンジニア。燃料流量リストリクターダウンはしていない存在だったが、それでも4ストップを選択したKEIHINは、最終的には修復しきれず再コースインはならなかった。また、序盤20周ずつでつなぐ変則作戦を選択していたEpson NSX CONCEPT-GTも、ダンロップタイヤが非常に高いパフォーマンスを示していたこともあり、最後まで見たい1台だった。

 最終的にサイド・バイ・サイドのバトルは序盤以外はそれほどはなかったが、耐久レースらしい戦略がハイスピードの中で実現していたのが今回の鈴鹿1000km。09規定のGT500はある意味画一的ではあったが、今回は新規定GT500だからこそ生まれた新時代耐久レースだったと言えるだろう。