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山中に捨てられる「無縁墓」 墓守がいなくなった「墓」は誰が管理すべきなのか?

2014年08月26日 17:21  弁護士ドットコム

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「墓の墓場」が全国各地に出現――。朝日新聞は、墓を管理する「墓守」のいなくなった無縁墓から撤去された墓石が山中に捨てられ、不法投棄も行われていることを報じている。


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朝日新聞によると、兵庫県南あわじ市の山中には約1500トンの墓石が不法投棄され、山積みになっている。その高さは4メートルにも達するそうだ。不法投棄は昨年も広島県や京都府で見つかり、この5年間で茨城、千葉、兵庫県などで業者が逮捕されたという。引き取った墓石の破砕処理に手間と時間がかかることが背景にあるようだ。



これらのすべてが無縁墓ではないだろうが、熊本県人吉市の調査によると、市内の4割超の墓が無縁墓だったという。無縁墓は誰がどう管理すべきなのだろうか。そもそも所有者はいないのか。墓地の問題にくわしい井上明彦弁護士に聞いた。



●宗教法人や自治体から「土地を借りる権利」を購入している


「そもそも無縁墓とはどのようなものか、説明しましょう。



民法では、お墓の所有権は、慣習に従って『祖先の祭祀を主宰すべき者』が承継すると定めています(民法897条)。



『祖先の祭祀を主宰すべき者』とは、どんな人のことだろうか。



「普通は長男になるでしょう。もっとも、今の少子化の時代では、常に長男がいるとは限りませんし、相続人自体が1人もいないという場合も珍しくはありません。



そうすると、お墓の所有権を承継する人がいなくなってしまいます。このような場合が、典型的な無縁墓にあたるでしょう」



では、無縁墓に所有者はいないのだろうか。



「お墓と一口にいいますが、お墓の土地とその上の墓石の所有者は違うことがあります。



お寺などの宗教法人や地方自治体が経営する墓地の場合、お墓を『購入する』というのは、正確には、一定の土地を『墓地として使用する権利』を宗教法人などから購入することをさします。その土地上に購入した墓石を建立して、死後、その中に遺骨を入れるわけです。



ですから、無縁墓の『土地』の所有者は、宗教法人や地方自治体であり、宗教法人などが無縁墓をそのまま維持できれば、今回新聞で報道されたような墓石の不法投棄は起こらないでしょう」



なるほど、誰が土地を所有しているのかがカギになりそうだ。では、なぜ今回のような問題が起きるのだろうか。



●無縁墓の遺骨は改葬され、墓石は撤去・破砕処分に


「無縁墓の場合、お墓の管理費を誰も支払ってくれませんから、宗教法人や自治体は、そのままお墓を維持することがコスト的に難しくなります。



そのため、宗教法人や地方自治体は、一定の手続を経た上で、無縁墓を改葬します。中の遺骨は無縁墓用の共同墓地などに改葬したうえで、墓石を撤去し、その土地を借りる権利を再び売りに出すのです」



その墓石の扱いが問題になっているようだ。



「墓地の管理規則には、将来無縁墓になった場合の措置について定めが設けられていることが多いです。『墳墓墓地、埋葬等に関する法律施行規則』には、縁故者のない死者の墳墓や納骨堂を『無縁墳墓等』として、改葬に必要な手続きが定められています。



改葬された遺骨は、無縁墓用の共同墓地などに入れられます。撤去された墓石は、お寺の境内で保管される場合等もあるようですが、石材業者に処分が依頼される場合もあり、その場合、通常は破砕処分されるようです。



しかし、新聞報道されたケースでは、破砕処分されないまま、積み上げられままになったり、一部は不法投棄されてしまっています」



●少子化で、将来「無縁墓」になる可能性が高まる


では、どうしたらこのような事態を防ぐことができるのだろうか。



「撤去された墓石の処分方法について、明確なルールや罰則を法律で設けることが1つの解決方法かもしれません。理想としては、公費で無縁墓をそのままの状態で維持するような制度ができればよいのでしょうが、現在の国の財政を考えれば、現実的なものとは思えません。



結局、たとえ自分には子供がいると思っても、孫やその下の世代のことは誰にも分かりませんから、誰のお墓でも将来無縁墓になってしまう可能性はあります。このまま少子化が進めば、その可能性はますます高まるでしょう」



確かに、今後少子化が進み、継承する人のいない墓が増えるかもしれない。



「お墓をもし購入するのであれば、そのようなリスクも理解した上で、購入するべきだと思います。



また、最近増えている海への散骨などは、必ずしもそれが目的ではないでしょうが、無縁墓になるリスクをそもそも負わない埋葬方法といえるでしょう」



大事に守られてきた墓が「無縁墓」になって、処分される姿はあまりにしのびない。将来どんなリスクがあるのか、考えておいたほうがいいかもしれない。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
井上 明彦(いのうえ・あきひこ)弁護士
広島市出身。広島大学を卒業して、2002年に弁護士登録(55期)。お墓の問題については、以前に墓地の経営トラブルに関する案件の依頼を受けたことがきっかけで、興味を持っている。
事務所名:広島法律事務所
事務所URL:http://hiroshima-law.jp/index.html