2014年08月25日 11:31 弁護士ドットコム
幼い子どもが、揚げたてのかき揚げを素手で無造作につかむ。おにぎりにかぶりつく――。こうした光景は、家庭の食事でなら、ありふれたものだろう。しかし、これがスーパーのお惣菜売り場だと、話は変わってくる。
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インターネットの投稿サイトには、惣菜売り場でこうした光景を目撃した人からの声が複数寄せられている。議論になっているのは、親が気づいても、商品をカゴに入れずに立ち去ってしまうパターンだ。こうした親の態度に対して、「信じられない」「当然買い取るべきではないか」という意見が寄せられている。
心理的にも、衛生的にも、他人が手で触れたお惣菜を、進んで買う人は少ないはず。他の客から指摘されたら、店もその惣菜を撤去せざる得ないだろう。
倫理の問題としてなら、親が買い取るのは当然といえそうだが、法律的にも「親に買い取り義務がある」といえるのだろうか。田村ゆかり弁護士に聞いた。
「素手で触れた惣菜は売り物にならないので、お店には『損害』が生じます。成人が同じことをした場合、不法行為として、お店は代金を請求することができます(民法709条)。
ただし、今回は『幼い子ども』の行為です」
幼い子どもだと違いがある?
「民法には、『幼い子どもに賠償責任を負わせない』というルールがあるんですね。民法712条は次のように定めています。
『未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない』
この条文があるので、子ども自身に代金の支払を請求することはできません。ちなみに、11~12歳くらいが、責任を負うか、負わないかの境とされています」
それでは、幼い子どもが発生させた損害は、誰が責任を負うのだろうか?
「そうした場合、子どもの法定代理人(親権者)である親が、損害を賠償する責任を負うことになります。
民法714条1項は、712条で子どもが責任を負わない場合、子どもを『監督する法定の義務を負う者』が、『損害を賠償する責任を負う』と定めています」
すると、幼い子どもがやったことは全て親の責任になる?
「そういうわけではありません。
民法714条1項には『ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき…は、この限りでない』という、条件が付いています。
これは、子をきちんと監督していた場合なら、親が損害賠償責任を負わないという意味です。
しかし、本件ではそのような事情は見受けられません。店は親に対して惣菜代金の支払いを求めることができるでしょう」
たしかに、親がしっかり子どもを監督していたら、子どもが惣菜を手で触ったり、食べたりすることはないだろう。こうした場合なら、モラル的な意味だけでなく、法的な観点からも、「親は子どもがしたことの責任をとれ」といえるようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
平成26年度沖縄弁護士会理事。同年度沖縄県包括外部監査補助者。経営革新等支援機関
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/