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『F1速報』のベルギーGP決勝分析:勝負のカギは、ベッテルが握っていた

2014年08月25日 11:30  AUTOSPORT web

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ベッテルが後続の速いマシンを抑えたことで、リカルドが勝つことができた
ベルギーGPは予想外の結果に終わりました。マシンの特性上、トップチームの中でもっともスパ・フランコルシャンに合わないと思われていたレッドブルのダニエル・リカルドが優勝……。スタート前には全く想像できませんでした。

 リカルドはなぜ勝つことができたのか? メルセデスAMGの同士討ち、タイヤマネジメントの上手さなど、いくつかの要素があったと思いますが、中でも最大の勝因は、セバスチャン・ベッテルの存在だったのではないかと思われます。

 レース中、ベッテルは2度にわたって後続車を押さえるというシーンがありました。最初のスティントではフェルナンド・アロンソ、バルテリ・ボッタス、キミ・ライコネンを押さえ、次のスティントではロズベルグとボッタスを押さえました。中でもロズベルグとボッタスをベッテルが押さえてくれたことが、リカルドの勝利に大きく貢献しました。

 今回のレッドブルは、これまでのレースとは異なって、最高速が速く、ライバルたちにとっては非常に抜きにくい、厄介な存在でした。これはダウンフォースを削り、極限まで空気抵抗を無くしたから。今回、最高速計測地点で一番速い速度を記録したのはロズベルグで、314.1km/hでしたが、これに対してベッテルは312.3km/h。これは出走全車のうち2番目の速度で、非常に抜きにくいというのがお分かりいただけるでしょう。

 ただ、最高速が伸びるとはいえ、ベッテルのペースはそれほど速くありませんでした。最初のピットストップ後のラップタイムは、リカルドに対して1周につき約1秒程度遅いもの。それでいて抜けないのですから、後ろに押さえられたロズベルグとボッタスは、先頭が1周につき1秒ずつ遠ざかっていってしまいます。それでも抜かない限り勝利はないことを悟ったロズベルグは、16周目の最終シケインでベッテルを抜きにかかりますが失敗。しかもタイヤを激しくロックさせてしまい、フラットスポットを作り、余計なタイヤ交換を強いられてしまいます。

 ロズベルグがいなくなった後、今度はボッタスがベッテルを攻めますが、こちらも成功せず……。結果的にリカルドとボッタスの間には15秒もの差が生まれてしまうことになります。ここで、勝負はほぼ決しました。

 2ストップ戦略を3ストップ戦略に変えたロズベルグが終盤に猛烈な追い上げを見せますが、結局追いきれず(残り9周で新品のソフトタイヤを装着。この時点でロズベルグは、リカルドの21.6秒後方。レース復帰後1周につき3秒近く差を縮めるが、5周ほど走ったところでそのペースが衰え、最後は3.3秒届かなかった)。リカルドが連勝を手にします。

 本来ならば、優勝ロズベルグ、2位ボッタス、3位リカルドという順位になっていたはずの今回のレース。しかし、5周目にリカルドがベッテルの前に出たことで、リカルドは強靭な防御壁を手に入れ、それを活かしてレースを有利に進めることができたように見えます。

 相手は違えど、アロンソも先行車に前を阻まれ、上位進出を逃したひとり。アロンソは最初のピットストップをリカルドと同じタイミングで行いますが、ペナルティ(フォーメーションラップ開始15秒前までにメカニックはグリッドから離れなければならないが、エンジンスターターのバッテリートラブルでこれに遅れてしまい、5秒ストップのペナルティを課せられた)を消化したためにケビン・マグヌッセンの後ろでコースに復帰します。しかしアロンソは、マグヌッセンを抜くことができず……最終スティントでも再びマグヌッセンに行く手を阻まれ、終盤にはベッテルとジェンソン・バトンにもポジションを奪われてしまいます。結局、8番手(マグヌッセンのペナルティにより7位で確定)でチェッカーを受けました。ただ、もしアロンソがペナルティを受けていなければ、マグヌッセンに捉まることもなく、最終盤にはライコネンと4位を争うことも可能だったはず。惜しいポイントを逃しました。

 ロズベルグとボッタスというふたりの強力なライバルを、ベッテルが長期間にわたって押さえたことで、すべてがリカルドにとって都合良く展開し、ハンガリーGPに続いて連勝。ベッテルはリカルドに対して、絶好のアシストを送ったという格好です。これが戦略だったのかどうかは分かりませんが……。とはいえ、ライバルに綻びが見えた時、確実に勝利を掴んでくるレッドブルには、さすが4連覇中のチャンピオンチームとも言うべき風格があります。

 ところで、“パワーユニットのライフを労るため”にリタイアしてしまったハミルトンですが、彼の選択は正しかったのでしょうか? レース中盤、映像では1コーナーを片手運転でクリアする場面などが映されており、「ちょっと気が抜けているんじゃないか?」と思う場面も多々ありました。ただ、ハミルトンの最初のピットイン後のペースは、トップとほとんど変わらないもの。もしそのまま最後まで諦めることなく走り切っていれば、アロンソを抜いて7位という可能性もあったように思えてなりません。このポイントが、今年のチャンピオンシップ争いに影響してこなければいいのですが……。