2014年08月24日 12:11 弁護士ドットコム
西アフリカを中心にエボラ出血熱が猛威をふるっている。世界保健機関(WHO)は8月19日、エボラ出血熱による死者が1229人に達したことを発表。エボラ出血熱の感染者が出ている国々に対して、出国する全ての人を対象に感染の有無を検査するよう要請した。
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エボラ出血熱は、感染者の血や汗といった体液、排せつ物などに触れることで感染する。現在に至るまで有効な治療法は確立されていない。ウイルスの種類によっては、致死率は50~90パーセントにも達する危険な感染症だ。
現在のところ、日本国内での感染は確認されていない。また、厚生労働省は、エボラ出血熱について、「通常の日本人旅行者が現地で感染するリスクは非常に低い」としている。しかし万が一、海外で「感染したかもしれない」と思ったら、どうすれば良いのだろうか。
検疫法や入管法などの出入国管理法制にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。
「どう行動すべきかは、症状など状況しだいの部分もありますが、仮にエボラ出血熱に感染した場合でも、日本人なら日本国に入国できないことはありません。まずは、空港で行われている『検疫』で、正直に申告することでしょう。
検疫は、感染症の病原体が国内に入らないよう、空港など水際で阻止するための検査のことです。検疫法では、エボラ出血熱は『一類感染症』として、検疫すべき感染症に含まれています」
その『検疫』は、どんな風に行われているのだろうか?
「具体的には、空港などで、入国者に対して質問・診察する形で行われています。
もし、エボラ出血熱に感染した疑いがあれば、その人は指定の医療機関等に隔離されたり、停留されたりします」
停留というのは何だろうか?
「『停留』は、症状はないものの感染した可能性がある人(濃厚接触者)を経過観察して、感染の有無を確認することです。
かつて、飛行機内で新型インフルエンザの患者が発見された際に、濃厚接触者(近くに座っていた高校生ら、乗客47名と乗員2名)が、成田市内のホテルに10日間停留されたことがあります。
その時にはニュースになりましたので、覚えている方もいるかもしれません」
長期間隔離・停留されれば、生活や仕事に支障が出るが、それを嫌がって嘘をつく人はいないのだろうか。
「検疫官の質問に答えなかったり、虚偽の答弁をした人や、診察・隔離・停留の措置を拒否したり、妨害したり、避けた人は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
また、隔離・停留の処分中に逃げだすと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます」
感染が広がらないよう、食い止める仕組みがあるわけだ。
「そうですね。ただ、実際にエボラ出血熱の感染者が日本の空港に来た場合、検疫をすり抜けてしまう可能性はあります。
エボラ出血熱は、潜伏期間が通常7~10日あり、初期症状も一見すると他の病気と似ているからです。新型インフルエンザのときも、多くが検疫をすり抜けてしまいました」
また、山脇弁護士は「厚生労働省による通達などを読む限り、現在中心となっているのは『日本人旅行者』への対策で、日本に入国・滞在する外国人への対策は、手薄なように感じられます」と話す。「海外から持ち込まれる感染症の拡大を防ぐという意味では、多くの外国人が集まる『東京入国管理局』でも、今よりもしっかりした対策が必要でしょう」というのだ。
どういうことだろうか?
「東京入国管理局は、手続に訪れたり、入管法に違反して収容されている外国人本人のほか、その家族や友人、航空券のチケット業者、弁護士、行政書士など、外国人も日本人も数多く来訪する場所で、非常に混雑しています。
しかも、入管法上、外国人は病気に罹患していたとしても、原則として本人自身が入国管理局に来庁し、自ら在留資格などの手続を行わなければならないんですね。
その一方で、東京入国管理局は、病院や空港などと違い、必ずしも感染症を防ぐという観点では運用されていません。
たとえば、手続に訪れた外国人の子どもたちが遊ぶキッズスペースや授乳室もありますし、入管法に違反した外国人を集団で収容する施設があります。また、口角泡を飛ばして、職員と口論している外国人もよく見かけます。
こうした場所では、ただ通過するだけの空港よりも、より濃い接触があります。エボラ出血熱に感染した人がいた場合、その体液等に接触してしまう可能性は、空港よりも東京入国管理局のほうがはるかに高いでしょう」
実際、どれぐらいの人が、日本に来ているのだろうか?
「現在、エボラ出血熱が流行している西アフリカ諸国の国籍の入国者数は、2013年に3538人いました。これに、過去にしばしば流行している中央アフリカ等諸国を加えれば、入国者数6098名にも及びます。
一般に日本に入国・滞在するアフリカ人は、中古自動車や部品の貿易を営んでいる人が多いのですが、これは、西アフリカ諸国などにも出張や商談で渡航し、日本及び海外で他者と接触する機会が多い仕事です。
そうしたこともふまえると、この数は、けっして軽視していいとは思いません」
今回のように、特定地域で感染症が流行した場合、その地域に滞在した人たちについては、日本人、外国人を問わず十分なケアが必要と言えそうだ。
「政府としては、日本国内でエボラ出血熱患者が発生した場合も想定しておくべきでしょう。国民が冷静に行動できるよう、今のうちからシミュレーションを周知徹底しておいたほうがよいと考えます」
山脇弁護士はこう指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山脇 康嗣(やまわき・こうじ)弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。検疫法や入管法などの出入国管理法制のほか、カジノを含むIR(統合型リゾート)法制及び風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長。主著として『詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)がある。
事務所名:さくら共同法律事務所
事務所URL:http://www.sakuralaw.gr.jp/