2014年08月23日 15:21 弁護士ドットコム
勤務先に黙っていた「前科」がばれて、解雇されるかもしれない――。こんな悩みが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。相談者は過去に執行猶予つきの有罪判決を受け、その執行猶予中に採用されたそうだ。入社してから5年間、問題を起こすことなく真面目に働いてきたという。
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ところが、あるとき前科が会社にばれ、「他の社員への悪影響」「経歴詐称」を理由に自宅待機を命じられたのだという。面接当時、過去の賞罰について聞かれたことはなく、就業規則にも、犯罪歴を隠して入社することが懲戒処分にあたるとは、書かれていなかったそうだ。
前科のある人が就職する場合、会社にその事実を告げなければならないのだろうか。隠していたことがばれてしまったら、解雇されても仕方がないのだろうか。労働問題にくわしい大川一夫弁護士に聞いた。
「本件は、一般的に『経歴詐称』と呼ばれるテーマの1つです。入社時の『経歴詐称』は懲戒解雇理由になることもあります」
大川弁護士はこのように説明する。
「会社側は採用時、労働者について『労働力があるか』という判断をします。その判断に大きく影響するような事柄を『詐称』することは、信義則違反として許されません。
判例にも、有罪確定判決の秘匿を理由に、懲戒解雇を認めたものがあります」
となると、前科を隠したら、解雇されても仕方ないのだろうか?
「いいえ。必ずしも、そういうわけではありません。採用後、相当期間にわたって大過なく勤務した場合、経歴詐称の信義則違反は『治癒される』と言われています」
つまり、入社したときに「キズ」があったとしても、真面目に働き続けることで「治る」こともあるというわけだ。
では、今回のような場合、前科を隠したまま入社したというキズは「治った」と考えられるのだろうか。
「相談者の事例では、次の4点がポイントです。
(1)黙っていた前科は、執行猶予が付いた比較的軽いものだった
(2)5年間、真面目に働いている
(3)『前科を隠して入社すること』が就業規則の懲戒事由に入っていない
(4)入社時に前科の有無を聞かれていない
こうした点を総合的に考えると、『解雇は客観的合理性、社会的相当性を欠いている』と思われます。つまり、『解雇は無効になる』のではないでしょうか」
いくら「前科」が発覚したといっても、それだけで従業員をクビにできるとは限らないわけだ。
大川弁護士は「もしどんな場合でも『前科』のあることで解雇が許されるとなれば、前科者は社会内で更生できません」と指摘していた。
刑事処分を受け、社会的な責任を果たしたひとが、再び社会に復帰するためには、本人の努力だけでなく、周囲の理解も不可欠といえそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大川 一夫(おおかわ・かずお)弁護士
大阪弁護士会所属、元同会副会長。
労働問題特別委員会委員、刑事弁護委員会委員など。日本労働法学会会員、龍谷大客員教授、大阪府立大非常勤講師。連合大阪法曹団幹事、大阪労働者弁護団幹事など。
事務所名:大川法律事務所
事務所URL:http://www.okawa-law.com