ブラック企業批判の中、「サービス残業の何が悪い?」と反論する人たちがいる。自分の判断で好きな仕事に没頭しているのだから、他人にとやかく言う権利はないというのだ。
All Aboutで「ニューリッチへの道」を担当する午堂登紀雄(ごどうときお)氏も、サービス残業は社会悪という認識は「一面的な見方にすぎない」という。そして金持ちになれる人は「サービス残業でチャンスを掴む」と主張している。(ライター:深大寺翔)
「凡人に限って権利意識が高い」と午堂氏
午堂氏は「貯金70万円を1年で3億円の資産に成長させ」た経験を持つガイド。知人である派遣会社のマネージャーから聞いた話として、「サービス残業」で正社員に登用された女性派遣社員の例を紹介する。
その女性は週に1~2回、10分程度のサービス残業をしていた。当然、上司から「どうした、帰らないのか?」と聞かれるが、そのとき「きりのいいところまでやって帰ります」と明るく答えていたのだという。
これを繰り返すことによって彼女は、その上司の推薦もあって正社員に登用された。午堂氏はその理由について、こう分析する。
「仕事が途中だろうと定時が来たら帰る他の派遣社員を見ていればなおさら、この態度に感心しない人はいません。派遣先の上司からは、『責任感のある人物』と映りました」
さらに「これが週に1~2回、時間にして10分15分というのがミソ」なのだとか。長時間のサービス残業が常態化すれば、自分もツライし、ありがたみも薄れるという。ちょっとした労力で「感激を売る」先行投資ができるのが、チャンスを手に入れる人であり、
「凡人に限って『働いた分はもらうのが当たり前』『残業代が出ないなら働かない』『この金額だからサービスもここまで』という権利意識が強く、こうした先行投資ができないのです」
という主張を展開している。頭ごなしにサービス残業を批判する「凡人」に対する反論、と受け取ってもいいだろう。
サービス残業程度で「感激」する上司はおかしい
さて、ここからはライター深大寺の個人的見解が混じる。午堂氏の主張は、世の中を要領よく渡る方法と捉えることができるかもしれないし、自力で世の中をのし上がろうとしている人の足をむやみに引っ張る必要もない。
しかし、このような主張が幅を利かすような社会は、不健全と思えてならない。なぜなら、「仕事が途中だろうと定時が来たら帰る」行為は決して批判されてはならず、それが困るのであれば、会社は「残業代を支払う」しか選択肢はないからである。
「サービス残業」は、まぎれもない違法行為で、厳密に言えば10分の残業にも、きちんと残業代を支払うべきなのである。大げさに言えば派遣社員の行為は一種の「贈賄」であり、これを上司が肯定すれば正直者がバカを見ることになる。
もっとも、この「ライフハック」には日本の正社員制度の闇がよく表れているとも言える。派遣先の上司は、「正社員になりたいのなら、雇用の安定と引き換えにサービス残業を受け入れるのは当然だ」と考えていたのだろう。サビ残前提なら、コストダウンも実現できる。
女性も正社員になれば「週に1~2回、時間にして10分15分のサビ残」で済まなくなるに違いない。それは彼女が望んだことなのだろうが、そういう悪しき慣例に疑問を持ち、自分の意思で「派遣」という働き方を選んでいる人だっている。
とはいえ、いちばん悪い登場人物は、なんといっても「サービス残業程度で"感激"する」ような壊れた価値観の持ち主である、派遣先上司である。私たちの心の中にこうした考えが存在するのであれば、徹底的に排除していかなければならない。
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