ホテルは24時間365日、常に営業しています。うちのホテルは早番・遅番・夜勤の3交代制が基本で、夜勤の仕事はアサイン(部屋割り)業務や館内見回り、備品の補充、予約サイトの口コミ返信、本社に提出する書類の作成など、1人で黙々とする仕事がほとんどです。
フロント夜勤は男女2人体制が基本で、私が夜勤に入るときは年の近いパートの男の子と組む事が多かったです。上司が居ない環境で気楽にのびのびと仕事ができる夜勤が、私は嫌いではありませんでした。…でも、少し怖いことが一度ありました。
1日1回から、2回3回と増えていき…
「お電話ありがとうございます、○○ホテルのユズモトが承ります」
「………………」
ある日の夜勤中、非通知からの無言電話がありました。いたずら電話か、間違い電話かなと、その時は特に深く考えていなかったのですが、無言電話は1回では終わらず、私が夜勤に入るたびに掛かってくるようになりました。
ちょうどその時、スタッフ不足のため夜勤ばかりやっていたので、無言電話は毎日のように掛かってきました。電話の回数も、最初は1日の夜勤につき1回だったのが、2回になり3回になり…、と増えていきました。
2週間くらい経ったころには、1~2時間に1回は無言電話が掛かってくるという状況に。不思議なことに、私がお休みの日は無言電話が掛かってこないのです。
最初は「好いてくれる人がいてよかったな!」と笑っていた上司や同僚も、これはただごとではないと判断したのか、私はしばらく夜勤から外れ、日中勤務を担当することになりました。
さらに、私は非通知からの電話をとらなくていいということになりました。この対応策はとても効果的で、昼番メインになった途端、無言電話はパッタリと止みました。
夜勤に復帰したその日に、また「非通知」が
2週間ほど何事もなく過ぎ、もう大丈夫だろう…ということで、私は夜勤シフトに戻ることになりました。そして、夜勤に復帰したその日。
もう1人の夜勤スタッフが館内の見回りに行っているとき、非通知からの電話が鳴りました。嫌な予感がしましたが、事務所に私しかいなかったので電話を取ると、その予感は大当たり。電話の主は男性の声で、
「……なんで逃げるの?」
とだけ言って、すぐに電話を切りました。
次の朝、私は泣いて支配人に報告し、「次に掛かってきたら警察に通報する」ということになったのですが、それ以降、無言電話は掛かってくることはありませんでした。これが私がホテルで経験した、一番怖くて嫌な出来事だったかもしれません。
ちなみに、実は、無言電話の犯人には、心当たりがあったりします。ちょうどその頃、長期滞在をしていたAさんが、無言電話が掛かってくる少し前に、いつもフロント前を通過していたのでした。
他の事業所でも、Aさんの滞在中に「無言電話が頻発していた」との確認もとれています。この場を借りて言います。――Aさん、あなたですよね?
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【プロフィール】ユズモト
20代半ばの現役OL。就活中に内定をもらったブラック企業に入るのがどうしてもイヤで、何の予備知識もない「ビジネスホテル業界」に新卒で飛び込む。社会人1年目から日本各地を転々とし、接客から営業、経理、調理まで、さまざまな業務を経験する。その後、一般企業に転職し、初めて描いたマンガを2ちゃんねる「ホテルの裏側(?)のマンガかいてみたwww」にアップして一躍時の人に。