2014年08月16日 10:51 弁護士ドットコム
「超富裕層」の課税逃れを突き止めろ――。国税庁は7月、富裕層の中でも特に資産や所得のある「超富裕層」の脱税を監視する「超富裕層プロジェクトチーム」を東京、大阪、名古屋の各国税局で発足させた。
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報道によると、「超富裕層」の基準は明らかになっていないが、国内外に数十億円の資産を持ち、投資活動を行っている会社役員や投資家などが対象になる可能性があるという。特に海外での資産運用が増えていることから、海外への投資や送金を把握することの重要性が高まっている。
このような「超富裕層」も含め、富裕層と呼ばれている人たちの所得隠しにはどういった手法があるのだろうか。税理士の久乗哲氏に聞いた。
「マルサ(国税局査察部)が所得隠しを調べる場合、隠した『所得』を明らかにするアプローチと、隠した所得の行き先の『資産』を明らかにするアプローチがあります。所得隠しの行き先である『隠し資産』は隠語で『タマリ』と呼ばれています」
では、「所得隠し」にはどういったものがあるのだろうか。
「隠した所得ですから、名義や動きが表に出てくる不動産購入は利用しにくいです。よくあるのは、現金を隠すというケースでしょうね。庭から現金が出てきたというのが典型例でしょう。
あと、貴金属や美術品など、保有していること自体には届け出義務のないモノが、利用されやすいですね」
たしかに、現金を隠していたというニュースは、ときどき見かける。
「最近では、海外の資産を利用することが多くなっています。海外に隠されてしまうと、日本の国税当局では捕捉しにくいということがあるからでしょう。国税当局では、富裕層による『海外資産を活用した所得隠し』に対応する動きがとられています。今回のプロジェクトチームもその一環でしょう」
国はこれまで、どんな対策を講じてきたのだろうか。
「1998年に施行された『内国税の適正な課税の確保を図る為の国外送金等に係る調書の提出等に関する法律』に基づいて、国外送金などの支払調書の提出制度があります。海外の送金や受取金が100万円を超える場合、金融機関を通じて、住所・氏名・送金金額などの支払調書を提出しなければなりません。
また、2013年10月には、EUとOECD加盟国間で『租税に関する相互行政支援に関する条約』が発効されました。この条約の締結によって、多くの国の税務当局との間で、租税に関する情報交換などを行うことが可能になりました」
外国とはどんな関係を築いているのだろうか。
「各国では個別に租税条約や租税協定が締結されています。日本政府も2014年6月、タックスヘイブンとして有名な英領バージン諸島と『租税に関する情報の交換のための日本国政府と英領バージン諸島政府との間の協定』に署名しました。
最近は海外資産を使った所得隠しが流行っているようですが、確実に難しくなっています」
「超富裕層」の対策も始まる中、今までのやり方で所得隠しを貫くことは困難になりそうだ。今後、調査を通じて、どんな「所得隠し」が明らかになるのだろうか。
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
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