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テレ東「ゾンビドラマ」の設定が「マンガ」とそっくり!? 著作権的に問題ないのか?

2014年08月15日 16:31  弁護士ドットコム

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テレビ東京が10月から放映するドラマ『玉川区役所 of the DEAD』の設定が、マンガ『就職難!! ゾンビ取りガール』(福満しげゆき・講談社)にそっくりだと話題になっている。


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●「ゾンビ回収業者」の男性が主人公


マンガ『就職難!! ゾンビ取りガール』は、雑誌『モーニング』(講談社)に連載され、2013年2月に単行本1巻が出版されている作品。動く死体、いわゆる「ゾンビ」が存在する架空の日本が舞台となっている。



この作品がユニークなのは、ゾンビが「そんなに脅威でない」存在と描かれている点だ。登場人物たちは、ゾンビに遭遇しても「ママー今ゾンビいたよー」「ホントー?危ないねー」という会話を交わすぐらいでほとんど気に留めず、平然と日常生活を続けている。



しかし、中には人に迷惑をかけたり、道ばたで動かなくなっているゾンビも混じっていて、そういったケースでは捕獲・回収がなされている。



物語の主人公は、そんなゾンビの捕獲・回収をする零細ゾンビ回収業者「ゾンビバスターズ」で働く冴えない男性。その会社に、就職にあぶれた若い女性がアルバイトとして入社してきたところからストーリーが始まる。



●ドラマの主人公は「ゾンビ回収担当」公務員


一方、ドラマ『玉川区役所 of the DEAD』は、公式サイトによると、次のような設定だ。



16年前、ゾンビが発生し、ウイルス感染をルートにして急速に世界中に広まっている。ただ、動きが遅く力も弱いことから、ゾンビはそれほどの脅威にはならないという認識が一般化し、ゾンビの存在は日常化している。



主人公は、ゾンビの捕獲・回収を担当する区役所の男性職員(25)で、そこに「超武闘派」の女の子が新人として配属されてくる。



この設定について、ドラマのプロデューサーは「野犬と同じくらいの存在感でしかない悲しきゾンビ達を、区民の通報で捕獲するイケてない主人公…という極めてユルイ世界」と説明している。



テレビ東京の広報部に問い合わせたところ、「マンガとは全く無関係で、参考にもしていません」ということだった。だが、二つの作品の「設定」はよく似ていると、ネットで指摘されている。



なかには「日本の法律はアイディアの盗用に関して寛容に出来てる」と嘆く声もあるが、著作権の観点からみて、問題ないのか。著作権法にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。



●どこから「著作物」になるのか?


「著作権法で保護されるのは『著作物』です。



著作物が生み出されるまでには、いくつもの段階があります。マンガでいうと、設定を思いついて、作品として企画し、ストーリーを考えるという『構想過程』があります。



さらに、この構想過程で生み出されたアイデアをもとにして、執筆という『表現過程』に取りかかるわけですね。



そして、『著作物』というのは、『構想過程』で生み出されたアイデアではなく、さらに進んで『表現過程』を経たものをいいます」



単なる「アイデア」は、著作物ではないということ?



「そうですね。今回、似ていると指摘されているのは、物語を創るにあたっての『設定』です。



・ゾンビが日常的な存在となっている


・ゾンビが人にとって脅威的な存在ではない


・その中でゾンビを回収しなければならない場合が存在する


・ゾンビ回収を担当する組織が存在する


・その組織には主人公となる若い男性とその部下にあたるヒロインがいる



こうした設定は、どんなに面白くても、まだ『アイデア』の段階ですね。先に説明した『構想過程』の域を出ていませんから、著作物として保護されないのです」



どうなれば、アイデアでなくて、『著作物』となるのだろうか?



「アイデア(物語の設定)を前提に、それぞれのキャラクターが具体的にどのような動きをして、役割を果たしていくかということを創作する過程が『表現過程』です。



この『表現過程』を経て創られたものが、『著作物』なります。



まとめると、著作権侵害であるというためには、『構想過程』で生まれたアイデアが類似するというのでは足りず、『表現過程』を経て創られた表現までもが、類似している必要があるということです」



●「大河ドラマ」vs「七人の侍」の裁判も


「こうした『問題』は、決して珍しいものではありません。



たとえば、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』の第1回放送分が、映画『七人の侍』の著作権を侵害しているとして、訴訟が起きたことがあります。



知財高裁平成17年6月14日判決は、二つの作品の類似点・共通点は、アイデアの段階の類似点・共通点にすぎない。『武蔵 MUSASHI』からは、『七人の侍』の表現上の本質的特徴を感得することができないとして、『著作権侵害にはならない』と結論づけました。



知財高裁が言いたいことは、『武蔵 MUSASHI』と『七人の侍』とは、『構想過程』で生まれたアイデアは類似するが、『表現過程』を経て創られた物語が異なるため、著作権侵害にはならないということです」



つまり、いくらアイデアが似ていても、二つが「作品として別もの」なら、著作権侵害にはならないというわけだ。



「そうですね。『玉川区役所 of the DEAD』の設定が、『就職難!! ゾンビ取りガール』と共通あるいは類似するというだけであるならば、著作権侵害にはならないのです」



●「オマージュ」はどうなの?


そうすると、よく「オマージュ」などとして、先行作品を前提に創られる作品があるが、そういうものはどういう扱いを受けるのだろうか?



「『オマージュ』は、芸術表現の方法として使用されている、幅のある言葉です。



そこで、仮にオマージュを『作品設定などのアイデアを過去の作品にもとめて、創作を行うこと』と考えた場合、著作権法的には『同一性保持権』や『翻案権』の問題となりますね。



『同一性保持権』は、ざっくり言うと、作品を創った人が『自分の作品を勝手に変えないで』という権利です。二次創作のマンガを描いた人に対して、もとのマンガの著者がそう主張するシーンを思い浮かべてもらうと、分かりやすいと思います」



もうひとつの、「翻案権」とはなんだろうか?



「翻案とは、原作の表現形態を変えることで、マンガをドラマ化することもこれにあたります。それをするためには、著作権の一種である『翻案権』を持っている人の許可が必要です。



この翻案権が侵害されたというためには、ある作品に接した人が、過去の他の作品を思い浮かべる、という程度ではダメです。



その作品に接した人が、『過去作品の具体的な表現上の本質的な特徴を直接感得することができる』という程度に至らなければ、翻案権侵害にはなりません」



つまり、具体的に2つの作品をじっくりと見比べないと、何とも言えないということ?



「そうですね。現実の訴訟では、二つの作品の該当部分を対比して、問題とされた作品の具体的な表現から、過去作品の具体的な表現が想起されるかどうかで判断します」



冨宅弁護士は、このように述べていた。



結局のところ、「著作権問題としては、実際の作品を見るまで、何とも言えない」ということだ。



ドラマ『玉川区役所 of the DEAD』の河原雅彦監督は公式サイトで、「ゾンビ愛溢れる僕ですから、これまでにない世界観を発明しました」とコメントしている。テレビ東京の「ドラマ24」枠はこれまでも、多くの人気ドラマを放映してきた実績がある。視聴者としては、どんな作品になるのか、まずは10月の放映を楽しみに待つべきなのかもしれない。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授
多くの知的財産侵害事件に携わり、様々な場所で知的財産に対する理解を広める活動にも従事。さらに、収益物件管理、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
事務所名:イデア綜合法律事務所
事務所URL:http://www.idea-law.jp/