2014年08月14日 19:31 弁護士ドットコム
蒸し暑い夏は、女性にとって「痴漢に注意!」の季節でもある。薄着にならざるを得ない中、「突然背後から抱きつかれて、下半身を撫でまわされた」「電車内で痴漢され、下着の中にまで手を入れられそうになった」など、痴漢被害は後を絶たない。もしもに備えて、自分で自分の身を守る護身術を知っておくのも一つの対策だろう。
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ネット上では、痴漢対策として様々な護身術が紹介されている。あるサイトでは、後ろから抱きつかれたとき、「痴漢の手をつかんで、人差し指を逆側にひねればよい」とすすめている。力のかけ方によっては骨が折れることもあるというが、その隙に逃げたり、助けを求めればいいのだ、と。
ただ、「さすがに骨折はやりすぎではないか?」という疑問も残る。痴漢に襲われたとき、身を守るために護身術で相手の指の骨を折ったら、処罰されてしまうのだろうか。中川 彩子弁護士に聞いた。
「これは、痴漢に襲われて反撃した場合、正当防衛が成立するかどうかという問題ですね。
正当防衛とは、『急迫不正の侵害』に対して、自己または他人の権利を防衛するため、『やむを得ずにした行為』を指します。このような行為は、結果として相手を傷つけてしまっても、違法性はないとして、処罰されません。
ただし、裁判で正当防衛が認められるかどうかは、かなり厳格に判断されます」
正当防衛が成立するかどうかの判断基準はどうなっているのだろうか?
「いくつかポイントはありますが、まず、『急迫不正の侵害』があるかどうかです。急迫不正の侵害とは、今まさに身に迫っている危害を意味します。危害が加えられそうだという『おそれ』だけでは、該当しません。また、すでに危害が去ってしまった場合も該当しません」
つまり、痴漢をしてくるのではないかと予測して先手を打ったり、痴漢が逃げたにもかかわらず、仕返しのためにわざわざ攻撃しに行ったりした場合などは、正当防衛にならないわけだ。
「また、『やむを得ずにした行為』だったかどうかも問題になります。このことの意味は、防衛行為が必要かつ相当であることを意味します。分かりやすい例でいえば、素手での攻撃に刃物で対抗するような、危害以上の防衛行為は、『やむを得ずにした』と判断されない場合もあるでしょう」
では、痴漢に襲われている最中に、護身術で痴漢の指をひねって、その結果、骨折してしまった場合は、どうだろうか。
「正当防衛が成立する可能性はあると思います。
しかし、あえて指を折ってやろうとして必要以上の力を加えたり、相手が痴漢行為をやめておとなしくなった後にもしつこく攻撃した場合は、正当防衛が成立しない可能性もあるでしょう」
やはり、いくら防衛のためにやったことでも、限度を超えてしまえば、正当防衛とはみなされないということだ。危険性がなくなったら、その時点で止めておくべきなのだろう。
ただ、痴漢に襲われた人が、その場で冷静に限度を見極めるのは難しそうだ。もし反撃をして、それが限度超えだとみなされたらどうなるのだろうか?
「もし、相手に対して限度を超えた攻撃をしてしまえば、逆に自分が傷害罪などに問われてしまうこともあり得ます。ただし、こうした場合、情状によっては『過剰防衛』として刑が減軽されたり免除されたりする可能性もあります」
中川弁護士はこのように述べていた。いざ痴漢に襲われたら、どんな風に対処するのか、普段からよく考えておくのが良さそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
中川 彩子(なかがわ・あやこ)弁護士
中小企業の企業法務や相続、離婚などの身近な法律問題を中心に幅広い案件を取り扱う。近年、特に相続・事業承継に力を入れており、円滑な相続・事業承継の実現のために地方紙連載やセミナー等で活動中。
事務所名:弁護士法人柴田・中川法律特許事務所
事務所URL:http://www.shibata-law.jp/