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スーパーGT:AMG首脳に聞く、GT3レースへのフィロソフィー「すべてに平等なサポートを」

2014年08月13日 21:10  AUTOSPORT web

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スーパーGT300クラスでランキング首位を走るGAINER DIXCEL SLS
8月9日~10日に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第5戦。あいにくの天候のレースとなったが、このレースに、メルセデスベンツのハイパフォーマンスカーやモータースポーツ活動を担うAMGの首脳陣が訪れており、オートスポーツwebでインタビューの機会を得た。まずは、GT300クラスに4台が参戦するメルセデスベンツSLS AMG GT3のカスタマーレーシング活動と、そのフィロソフィーについてだ。

 AMGは、ヨーロッパをはじめ世界中で多くのカスタマーが存在するFIA-GT3カテゴリー向けに、2011年にSLS AMG GT3をリリース。日本でもスーパーGT300クラスに3チーム4台のマシンが参戦しており、すべてのチームがAMGカスタマーレーシングとしてサポートを受けている。

 そんなAMGの社長として昨年10月に就任したのが、技術畑出身のトビアス・ムアース。今回の富士では、AMGカスタマープログラムのコーディネートを行っている元DTMドライバーのトーマス・イェーガーを伴い初の来日を果たした。

「日本自体に来ることが初めてなんだ。それまで20年間、開発部門のエンジニアをずっとしてきたから、エンジニア時代に日本に来ることはなかったんだ。昨年の10月1日に社長に就任してマーケットをまわっていて、初めて来日することになった。今見ているだけでも(インタビューは予選日夕方に収録)スーパーGTはエキサイティングだよ」と初めてのスーパーGTの雰囲気を満喫している様子のムアース。

 また、イェーガーはしばしば日本を訪れており、「ここに来るとレース自体がいつもすごく面白いからね。スーパーGTは大好きだよ。去年のJAFグランプリの時にも来たんだけど、お客さんでスタンドが埋まっているし、今日も朝からピットウォークを待っているお客さんが行列を作っていて、しかも順番をきちんと守っているだろ? ファンの皆さんがどれだけ期待してくれるかはそれを見ただけでも分かったよ」と日本のファンに感銘を受けている様子だ。

●AMGカスタマーレーシングのサポート体制
 まずふたりに、AMGカスタマーレーシングとして、スーパーGT300クラスに参戦する4台に対し、どんなサポートが行われているのかを聞いた。これについて語ってくれたのは、コーディネーターのイェーガーだ。

「我々は純粋にカスタマープログラムとしての体制でやっていて、すべてのチームに平等なサポート体制を提供しているんだ。今年スーパーGTは全8戦あるが、毎戦ひとりエンジニアを置いてすべてのチームを見ている。エンジニアは、すべてのチームがその週末できちんとパフォーマンスを出すことを保証するためにある」とイェーガー。

「日本だろうがヨーロッパだろうが、サポート体制にまったく区別はないんだ。内容にはまったく差を付けていない。それは金銭的な部分でも、テクニカルな部分でもね」

「重要なのは、我々のカスタマープログラムは、ファクトリーチームではないということだ。カスタマーであるチームオーナーに責任や選択権を持ってもらい、我々はそのパフォーマンスを引き出すためにサポートする。そういうカスタマープログラムのチームが日本でもヨーロッパでも、ファクトリーチームと互角に戦って表彰台に上るというシーンを見るのは、すごく良いことだと思うし、この体制が成立している証拠だと思う」

●“ワークス”を作らない意義
 実際に、メルセデスを走らせる強豪チームはヨーロッパでも日本でも多くいるが、ワークス然としたカラーリングをもつマシンはいない。だが一方で、メルセデス/AMGのライバルと言えるBMWやアウディが有力チームをサポートし、ワークスカラーリングを纏い成功を収めている例がある。スーパーGTでも今季、"ワークス"という訳ではないが、日本のインポーターが積極的にサポートするチームが出現した。では、メルセデス/AMGとして、今後こういった活動を行う予定は無いのだろうか。

「今言ったように、我々は今のプログラムに満足しているんだ。大事なところは、カスタマープログラムであるということ。ワークス体制というものを敷いてしまうと、継続性や安定性に欠く。このプログラムではチームに重きが置かれているんだ。我々も、チームも満足してくれている」というのはムアースだ。

「ワークス体制のチームに、我々のカスタマーチームが互角に戦えていることが重要だ。我々のSLS AMG GT3は戦闘力が高く、ライバルたちと互角に戦える。そしてそれが均等にサポートを受けて、同じ力とクオリティを発揮できるということが最も重要だと思っている」

「それは日本でもヨーロッパでも変わらない。本国のドイツでさえもね。ニュルブルクリンク24時間では、ワークス体制のチームが多くいる中で、我々のカスタマーチームが2位に入った。問題なく戦えていると思うし、今の体制が強力である証拠だ」

 実際に、今季のニュルブルクリンク24時間では強豪ブラックファルコンのSLSが、ワークスカラーリングを纏うアウディを最後まで追いつめた。あくまでAMGとしては、カスタマーチームをすべて平等に扱い、マシンを販売することに繋げているように感じられる。こういった考え方は、まずセミワークス的なチームを作りレースで活躍し、戦闘力をアピールしカスタマーを増やそうとする他メーカーとは異なった考え方と言える。AMGのGT3レースに対するフィロソフィーが感じられた。

「もしカスタマーチームで戦う時に、力が違うワークスカーが2~3台いたとしよう。もしあなたがカスタマーチームのオーナーだったらハッピーかい(笑)?」とイェーガーは笑う。それに続けて、ムアースもこう語った。

「我々のSLS AMG GT3は、カスタマーチームの皆さんに買ってもらうクルマなんだよ。チームはお金を払ってクルマを買っているのに、そこにそれより強力なクルマが出てきたら、買ったチームの人たちにとっては悪夢でしかないだろう?」

●新しいメルセデスベンツのGT3カーも登場か!?
 ムアースはまた、今後もメルセデス/AMGとしてはスポーツカーレースに注力していくと語る。その理由とともに、ムアースは興味深い内容を教えてくれた。

「皆さんインターネット等でご存知かもしれないが、我々は『メルセデスベンツAMG GT』という新スポーツカーを世に送り出すことになる。今後そのクルマはご覧頂けるはずだ。そのスポーツカーを支える源流はやはりレースにあり、GT3カスタマーレーシングに今、我々は注力しているんだ」

 すでにメルセデスベンツSLS AMGは販売が終了しており、ムアースが語る『メルセデスベンツAMG GT』はその後継機種と言われている。もしこの新型車両が発売された時、同様にGT3カーも登場することになるのだろうか? 大いに興味を惹かれるところだ。