2014年08月12日 11:01 弁護士ドットコム
夏と言えば花火大会。夜空に上がる花火を浴衣姿で見るのは、夏の楽しみのひとつだ。ただし、人混みには注意が必要だ。帰宅後に浴衣を脱いでみたら、焼きそばのソースや歩きタバコの焦げ跡がついていた、なんてこともあるからだ。
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あるネット掲示板には、花火大会で、タバコとみられる焦げ跡を浴衣につけられたという女性が体験を投稿していた。その浴衣は、一緒に出かけた友人から借りたもの。「弁償する」と謝る女性に対し、友人は「気にしないでいい」と言ってくれたそうだ。結局、後日、食事をごちそうすることでおたがいに納得した。
この女性は話し合いで解決できたが、仮に、浴衣の持ち主から「新品を買って弁償して」と要求されてしまったら、応じなければいけないのだろうか。浴衣は、数千円で買えるものもあれば、十万円以上するものもある。気軽に借りた浴衣が「実は高価なものだった」と、あとから知らされた場合、その金額を弁償しなければならないのか。村上英樹弁護士に聞いた。
「無償で浴衣を借りるという約束は、法律的にみると、使用貸借契約(民法593条)にあたります。
使用貸借契約を結ぶと、借りた側が『借りた物を返す義務』を負うのはもちろん、『善良な管理者としての注意義務』(民法400条)といって、借りた物をしっかり管理する義務も負います。
この義務に違反して浴衣を汚してしまった場合は、『債務不履行』(民法415条)として、損害賠償をしなければならなくなります」
浴衣を汚したら、新しいものを買い直さないといけないのだろうか?
「損害賠償として認められるのは、基本的には『修繕代』となります。つまり、焦げ跡を繕う費用やクリーニング代等ですね。
一方で、修繕が不可能な場合は、浴衣の現在価値(新品ではなく、その時点での中古品としての価値)の弁償となります。
また、修繕代等より、浴衣の現在価値のほうが安ければ、浴衣の現在価値を弁償することになります」
それでは、「浴衣が想像以上に高かった」という場合でも、その金額を支払わなければならない?
「浴衣が予想に反して高価だったという場合でも、浴衣の価値が『常識的な範囲内』なら、弁償を覚悟しなければなりませんね。
ただし、たとえば、一見普通の浴衣に見えるものが、常識外に高価な浴衣で、借りた側がそのことを全く聞いていないし、予想もできない場合などであれば、弁償額がある程度、制限されることもあり得ます」
村上弁護士はこのように話していた。
浴衣に限らず、人からものを借りる際には、そのものの価値をきちんと確かめておいたほうがよさそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件、倒産事件(債務整理含む)を取り扱い、最近では、交通事故(被害者)、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com/