トップへ

「激辛バーガー」食べて病院へ・・・「店は責任を負わない」という誓約書は有効か?

2014年08月07日 11:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

イギリス南部にある町でこのほど、「激辛バーガー」を食べた地元メディアの記者2人があまりの辛さに体調を崩し、病院に運び込まれた。このハンバーガーには、辛さの単位「スコヴィル値」で700万~900万という激辛ソースが入っていたという。タバスコソースが2500~5000、ハバネロが10万~15万というスコヴィル値であることからすると、とんでもない辛さだといえる。


【関連記事:「料理の写真を勝手に撮るな!」 レストランに撮影を禁止する権利はあるか?】



デイリーメール紙によると、記者の1人は激辛バーガーを食べた後すぐに、腹痛や手足のしびれなどに見舞われ、病院に運び込まれた。もう1人も、一口食べただけでギブアップ。約2時間後に体調が悪化した。2人は病院で治療を受けて、仕事に復帰することができた。



この店では、激辛バーガーの挑戦者に、「店は一切の責任を負わない」という誓約書にサインすることを求めている。もし日本で同じような事態が起きた場合、このような誓約書があったら、どうなるのだろうか。一藤剛志弁護士に聞いた。



●病院送りになるような「激辛バーガー」を売った責任は?


「まず、病院送りになるほどの激辛バーガーを売ることは、いかに辛さを売りにしていて、客も辛いことを了解していたとしても、客の生命・身体に対する損害を与えかねないものです。したがって、『債務不履行』といえるため、客は店に対して損害賠償を請求できると考えられます」



一藤弁護士はこのように説明する。つまり、店が必要な義務を果たしていないことから、「債務不履行」にあたるということだ。この場合、「店は一切の責任を負わない」という誓約書は、効力がないということだろうか。



「このような記載は、激辛バーガーの売買契約の一部にはなるでしょう。



しかし、日本の法律では、『事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項』は無効とすると定められています(消費者契約法8条1項)。



このため、店が責任を完全に免れるような誓約書は無効になります。したがって、誓約書にサインしたか否かにかかわらず、客は店側に対して損害賠償を請求できると思われます」



●客にも「落ち度」がなかったとはいいがたい


誓約書の記載が無効ならば、サインしても意味はない。そして、激辛バーガーで病院送りになった客は、店側に対して損害賠償を請求できるということだ。では、損害賠償はどこまで認められるのだろうか。



「たとえば、病院の治療費や通院交通費などが考えられます。さらに、仕事を休むことになれば、その損害も認められるでしょう。



万が一、後遺症が残ることになれば、慰謝料に加え、後遺症が残ることで将来得ることができなくなった利益の賠償なども認められる可能性があるでしょう」



しかし、客はあえて誓約書にサインしてまで、激辛バーガーに挑戦したともいえる。そんな客に落ち度があったとはいえないのか。



「これだけの激辛バーガーに挑戦した客も、まったく落ち度がなかったとはいえないでしょうね。被害者に過失(落ち度)があった場合は、これを考慮して損害賠償の額が定められることになっています(民法418条)。



今回のケースも、客の過失の程度に応じて、損害賠償請求できる金額は制限を受けることになると思われます」



暑い夏に負けまいと、激辛フードに挑戦する人もいるだろうが、さすがに病院送りは避けたい。吹き出す汗が心地よいレベルに留めておくのがよさそうだ。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
一藤 剛志(いちふじ・つよし)弁護士
第二東京弁護士会多摩支部 副支部長、公益社団法人立川法人会 監事
事務所名:弁護士法人TNLAW支所立川ニアレスト法律事務所
事務所URL:http://www.tn-law.jp