2014年08月06日 18:41 弁護士ドットコム
24時間以内に首でもつって死んでくれ——。7月29日に14歳の長男を殴った疑いで逮捕された父親(41)が、長男に対してそんな暴言を吐いていたと、報じられている。
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報道によると、父親は「長男を殴った際、『24時間以内に首でもつって死んでくれ』と言った」と、警視庁に供述しているという。長男は7月29日午後に父親から暴力を受け、その翌30日朝に自室でクビをつって死亡しているのを、母親に発見された。
父親の暴言や暴力などで、精神的に追い詰められたと、警察はみているようだ。父親の暴力は数年前からで、6月中旬から特に激しくなったと、母親は証言しているという。
衝撃的な話だが、「24時間以内に首でもつって死んでくれ」と迫った相手が、本当に首をつって自殺した場合、死亡についての法的責任は問われるのだろうか? 刑事事件にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。
「まず考えられるのは、自殺教唆罪(刑法202条)です。この罪で有罪になれば、6カ月以上7年以下の懲役刑または禁錮刑に処せられる可能性があります」
自殺教唆罪とは、もともと自殺しようと思っていない人に決意させて、自殺させるという犯罪だ。今回のケースにあてはめた場合、もし父親の言葉によって息子が自殺を決意・実行していれば、この犯罪にあたるわけだ。
ただ、落合弁護士によると、場合によっては、さらに重い犯罪が成立する可能性も考えられるという。それはどんなものだろうか?
「考えられるのは、より刑が重い、『間接正犯』としての殺人罪(刑法199条)です。殺人罪の法定刑は、死刑か無期懲役、または5年以上の懲役であり、自殺教唆罪よりも格段に重くなります」
ここで出てきた「間接正犯」というのは、どんな意味だろうか。
「間接正犯というのは、自らが直接手を下す直接正犯とは異なり、他人を道具として利用する・・・そうであるがゆえに、正犯としての責任を問われる形態です」
つまり、自ら直接、手を下しているわけではないが、他人を道具のように意のままに操って、自らが望む犯罪を実行していることから、「正犯」と評価される。そのような犯行の形態を「間接正犯」と呼ぶわけだ。
今回の事件については、どうだろうか?
「報道をもとに考えると、本件では、被害者に対して、長期間にわたり執拗かつ強度な暴行が加えられた上で、精根尽き果てた被害者に自殺が強制された可能性があります。
もし、裁判でそのような認定が成されれば、被害者自身を利用した間接正犯として殺人罪が認定されることもあり得ます」
そのようにして、殺人罪を認めたケースはあるのだろうか?
「被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し、暴行・脅迫を加えて自殺を執拗に迫り、被害者に他の行為を選択する余地がない精神状態の下で、運転する車を岸壁上から海中に転落させたというケースがあります。
最高裁判所はこのケースで、殺人未遂罪を認定しました(死亡には至らなかったため)」
今回の事件の場合、判断のポイントはどこにあるのだろうか?
「本件が自殺教唆罪にとどまるか、殺人罪まで成立するかは、『被害者の意思が強度に抑圧され、他の行為を選択する余地がない程度にまで達していたかどうか』によるでしょう」
つまり、父親の言葉や暴力によって、息子が自発的に自殺を決意していれば自殺教唆罪。一方で、自殺以外の選択をする余地がないほど追い詰められていたとすれば、殺人罪ということだろう。
父親と息子の間で、具体的にどのようなやりとりがあったのか・・・そこが事件のゆくえをうらなう、重大なポイントとなりそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
落合 洋司(おちあい・ようじ)弁護士
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。
事務所名:泉岳寺前法律事務所