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花火大会の後に残った「ゴミの山」 身勝手なポイ捨ては「法律違反」でないのか?

2014年08月06日 14:51  弁護士ドットコム

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駐輪場に散乱するゴミ、電信柱や自動販売機の横にうずたかく積まれたゴミの山・・・。7月下旬に東京東部で催された「隅田川花火大会」では、路上にポイ捨てされたゴミの写真がツイッター上に投稿され、物議を醸した。


【関連記事:カラースプレーで花火の「場所取り」 こんな自分本位の手法は認められるのか?】



「花火大会のせいでゴミの山ー(´・_・`)去年まではこんなんじゃなかったのにな(._.)」「隅田川の花火綺麗だったけど,帰り道ゴミだらけでびっくりした。明日になって、観光に来た人がこれ見たらどうせ俺ら地元民のせいにされるから本当やめて欲しい」



会場の近くに住んでいると思われる人からは、こんな来場者のマナーに苦言を呈する声が、多くツイートされていた。



ところで今回の騒動、おもに来場者の「マナー」との問題として議論されているが、こうした形でゴミを捨てることは、なんらかの法律に違反するのではないのだろうか。高岡輝征弁護士に聞いた。



●「廃棄物処理法」違反になる


「ゴミの不法投棄は違法です」



高岡弁護士は明快にこう述べた。具体的には、どのような法律に違反するのだろうか。



「『廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)』の16条に『何人も,みだりに廃棄物を捨ててはならない』とあります。『何人も』ですから、一般人も対象となります。また、『廃棄物』には、ゴミが含まれます(廃棄物処理法2条1項)。



したがって、隅田川の花火大会の際に、一般の人がゴミを捨てる行為は、廃棄物処理法16条違反となります。罰則は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金です(廃棄物処理法25条1項14号)」



廃棄物処理法以外の法令はどうだろうか。



「ほかには、『公共の利益に反してみだりにごみ……を棄てた者」(軽犯罪法1条27号)として、軽犯罪法にも違反します。



また、区の条例にも違反します。隅田川花火大会の会場は、台東区と墨田区にまたがっていますが、いずれの区でもゴミのポイ捨ては条例違反です。ただし、区の条例に罰則規定はありません」



1回のゴミのポイ捨てで、いくつも法令違反が成立し、それぞれで罰せられるということだろうか。



「そうではありません。このように、1つの行為が2つ以上の罪名に触れることを、『観念的競合』といい、最も重い刑で処罰されます(刑法54条1項前段)。



今回の事案では、廃棄物処理法の罰則がいちばん重いので、廃棄物処理法で処罰されます」



なぜ、同じ行為をいくつもの法令で規制するのだろう。一つで十分ではないだろうか。



「各法令は、それぞれの目的を達成するために行為を規制しています。軽犯罪法の目的は、処罰の可能性のある行為を一般国民に示すことにより、最低限の治安を維持することです。これに対して、廃棄物処理法は『生活環境の保全および公衆衛生の向上を図ること』です」



実際に処罰される可能性はあるだろうか。



「あります。ゴミの分量や地域的広がり、ゴミ投棄の頻度といった観点で、被害の大きさや態様の悪質性が高いケースです。こうした場合、捜査・起訴が行われ、処罰される可能性があります。



ただ、おそらく今回問題となったゴミの多くは、多数の人が捨てた手持ちのゴミが積み重なって、大きなゴミの山となったものです。そうすると、全員の処罰は不可能です。かといって、特定の人だけを捜査・起訴することも見せしめ的で、不平等でしょう。



したがって、特殊な事例——たとえば、捨てたゴミが大量とか、広範囲にわたって公道上に捨てたとか、組織的犯行とか、常習性があるといった場合でない限り、起訴や処罰の可能性は低いと考えられます」



実際に起訴され、有罪となったケースはあるのだろうか。



「廃棄物処理法違反の罪で起訴され、有罪となった裁判例はあります。ただ、そのほとんどは、廃棄物の処理を請け負ったのに、廃棄物を適切に処理しなかった事業者が処罰された事例です。



15年ほど前に『おから』を産業廃棄物と認定した判例が世間を賑わせて話題になりましたが、この判例がまさに廃棄物処理法違反の事件でした。



なお、もっぱら軽犯罪法1条27号に基づき起訴され、有罪となった裁判例は、私が調べた限りでは見当たりませんでした」



●ポイ捨てした土地の持ち主から損害賠償請求される可能性も


ゴミを捨てられて被害を受けた一般人は、ポイ捨てした人に対して、何か請求できないだろうか。



「たとえば、ポイ捨てされた場所が私有地であった場合、土地の持ち主は、ゴミを捨てた人に対して、ゴミの撤去を請求したり、損害賠償を請求することができます」



最後に、花火大会主催者は、どのような対策を取ればよいか?



「ゴミの持ち帰りの徹底を図ったり、ゴミを回収するのに十分な数のゴミ捨て場やゴミ箱を設置するなど、マナーを守ってゴミを捨てるように周知徹底したり、警備員を巡回させることでしょう」



高岡弁護士はこのように述べていた。



今夏、花火大会はまだいくつも全国で予定されている。ゴミのポイ捨てが「違法」であることをしっかりと頭においたうえで、会場の指示にしたがって適切にゴミを処理しよう。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
高岡 輝征(たかおか・てるまさ)弁護士
神奈川県藤沢市出身。湘南高校・明治大学卒。1999から2003年まで検事として名古屋・山形・東京・横浜の各地検に勤務。2004年「大船法律事務所」開業。2012年「弁護士法人プロフェッション」設立。2013年に支店「辻堂法律事務所」、2014年に支店「平塚八重咲町法律事務所」開設 。趣味は旅行、ドライブ、読書。
事務所名:平塚八重咲町法律事務所
事務所URL:http://www.prof-law.com