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体調不良で会社を休みがちな「派遣社員」 契約打ち切りを止める方法はないか?

2014年08月04日 11:21  弁護士ドットコム

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大阪市内で派遣社員として働いているKさん(30代・女性)は、今の職場に勤めて、もうすぐ2年になる。契約は3カ月単位だが、これまで順調に更新されてきた。勤務態度に問題はなく、遅刻や欠勤は一度もない。しかし最近、めまいや立ちくらみがひどく、会社を続けて休むことになってしまった。医者からは自律神経の乱れが原因だと診断された。


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その後もKさんは体調がなかなか回復せず、薬を服用しながら通勤している。会社を休むこともしばしばあるそうだ。派遣社員につきものの、契約更新を確認するタイミングがまもなくやってくる。これまでは何気なく行われていた更新手続きだが、頻繁に仕事を休んでいることで、「更新がないかもしれない」と、Kさんは不安をつのらせている。



派遣先企業の社員ならば、その会社の休職制度を利用することもできるだろう。しかし、Kさんのように、派遣社員の場合はどうだろう。勤務態度や能力に問題がなくても、欠勤が原因で派遣契約を打ち切られてしまうのだろうか。派遣労働にくわしい今泉義竜弁護士に聞いた。



●派遣先の休職制度は使えない


「Kさんのような派遣社員が結んでいるのは、派遣元(いわゆる派遣会社)との雇用契約です。派遣社員は、派遣先と雇用契約を結んでいないため、派遣先で雇われた労働者向けの休職制度を使うことはできません」



このように今泉弁護士は説明する。



「Kさんが長期にわたって欠勤した場合、派遣先は、派遣会社との派遣契約を打ち切るか、Kさんのかわりの派遣社員を派遣会社から受け入れるでしょう。そうなってしまうと、派遣元は、Kさんとの雇用契約を打ち切る可能性が高いですね」



同じ職場で働きたいと願っても、認められないのだろうか?



「もし派遣社員であるKさんが、一定期間休職した上で、同じ派遣先の職場で働き続けたいと思っていたとしても、その願いを法的に実現するのは難しいのが現実です。これは、不安定雇用を合法化している『派遣制度そのもの』から生じる問題です」



会社と交渉する余地はないのだろうか?



「派遣元企業は、派遣労働者の雇用安定に必要な措置を講じて、福祉の増進を図るよう努めなければならないとされています(派遣法30条の3)。また、派遣先企業は、派遣契約を解除する場合、派遣労働者の雇用の安定を図るために、新たな就業機会の確保を図るなどの義務があります(派遣法29条の2)。こういった規定を活用して、派遣元、派遣先に対して、休職した上で復帰できるよう交渉するという手はあります」



●1人で加入できる「労働組合」を味方に


交渉の際、Kさんが気をつけておくべきことはあるだろうか。



「交渉は一人で行うのは限界がありますから、青年向けのユニオンや派遣社員向けのユニオン、地域のユニオンなど、1人でも入ることができる労働組合に加入して、団体交渉を行うことをおすすめします。労働組合は大きな力になります。労働組合からの交渉申し入れに対して、会社は法律上拒否できないという強みが、労働組合にはあるのです」



ほかにアドバイスはあるだろうか。



「最低限、身を守るための制度として、加入している健康保険の『傷病手当金制度』について確認しておいてください。派遣健保などに加入していた場合、在職中に3日以上連続で欠勤したとき、傷病手当金の申請をすれば、4日目以降の給与の3分の2を、最大1年半受け取ることができます。この場合、欠勤は土日や有給休暇が入っていてもOKです」



派遣は不安定な雇用形態だ。制度の改善が求められるが、一方で、自分で自分の身を守る術も知っておきたい。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
今泉 義竜(いまいずみ・よしたつ)弁護士
2008年弁護士登録。日本労働弁護団事務局次長。青年法律家協会修習生委員会事務局長。労働者側の労働事件、交通事故、離婚・相続、証券取引被害などの一般民事事件のほか、刑事事件、生活保護申請援助などに取り組む。首都圏青年ユニオン顧問弁護団、ブラック企業被害対策弁護団、B型肝炎訴訟の弁護団のメンバー。
事務所名:東京法律事務所
事務所URL:http://www.tokyolaw.gr.jp/