オハイオ州にあるミド・オハイオ・スポーツカーコースで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズ第15戦。3日行われた決勝レースは、最後尾からスタートしたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が今季初勝利を挙げた。佐藤琢磨(AJフォイト)は、1周目の多重クラッシュに巻き込まれるなどトラブルの多いレースを18位完走で終えた。
過去4勝と大得意のミド・オハイオで予選最下位。ウエットコンディションに足をすくわれてのこととはいえ、「今シーズンのスコット・ディクソンはもう勝てないかもしれない」とも考えられていた。今週末のレースを含め、もう残りは4戦しかない。
しかし、彼らは今季初勝利を掴んだ。それも、22番グリッドからのスタートで。こんな勝利が実現されるとはディクソン自身も期待をしていなかっただろう。
2位はセバスチャン・ブルデー(KVSHレーシング)だった。ポールポジションからスタートした彼は予選での速さを決勝でも保っていた。しかし、ひとりのドライバーがレース後半に遥か前方を走り続け、彼のシーズン2勝目を阻んだ。そんなドライバーが現れること、それが最後尾グリッドからスタートした者になるとはブルデーも考えていなかったはずだ。
スタート直後にトニー・カナーン(チップ・ガナッシ)がスピンし、ストップしたところへマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)が突っ込み、他にも多くのマシンがダメージを受ける大きなアクシデントが発生。タイヤやボディへのダメージを心配して2周目に最初のピットストップを行ったディクソンは、次のピットストップには僅か8周後の10周目に入った。これは予定の行動だった。トップグループとピットタイミングをずらし、そこに勝機を見出す作戦だったのだ。
ディクソン陣営の希望した以上のレース展開は、次のピットタイミングの後に待っていた。31周目に3度目のピットストップを行ったディクソン。その少し後の37周目にライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)がスピンし、フルコースコーションとなった。
39周目にブルデーを先頭に全車がピットに雪崩れ込んだ……と思ったらディクソンだけはステイアウト。一気にトップに躍り出た。31周目にピットした後はリードラップ最後尾の18位だったから17台抜き。それも、コース上で1台もパスせずにトップに立ったのだった。
もちろん、運だけで勝てるほど今のインディカー・シリーズは甘くない。トップに立ったディクソンは、優勝に見合うだけの速さを見せつけた。それはライバル勢を驚かせるほどのものだった。ブルデーは5秒もの大差をつけられての2位となったのだ。
そのブルデーを46周目にコース上でのバトルでパスしたジョセフ・ニューガーデン(サラ・フィッシャー・ハートマン)は、すぐさまディクソンにアタックした。しかし、彼にはディクソンからトップを奪うまでの速さはなかった。そして、最後のピットストップでエアホースを踏むミスを冒し、ペナルティを受けて失意の12位フィニッシュとなった。それでも、「勝利は近い」と改めて、そして強く感じさせたミド・オハイオでのニューガーデンだった。
4台をフルエントリーするガナッシ勢にとっても今シーズン初勝利となった。最後尾スタートからの優勝はとてつもない幸運が味方したものではあった。しかし、運を呼び込むために他陣営とは異なる作戦を採用し、勝負の流れが一気に自分たちへと向いた時、それを掴んで話さずに勝利に結びつける。それだけの強かさがディクソンとガナッシにはある。
ディクソンはミド・オハイオでの5勝目(2007、09、11、12年に優勝)を挙げた。そして、ガナッシはミド・オハイオでの6連勝(ダリオ・フランキッティが2010年、チャーリー・キンボールが2013年に優勝)を記録した。
3位はジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポート)。彼もまた後方スタートからの表彰台フィニッシュだった。17番手スタートからコーナーをひとつ曲がっただけで11個もポジションをアップ。カナーンが巻き起こした混乱を見事に味方につけてのことだった。そこからのヒンチクリフは1回目のピットストップをやや早めに行った後、チームメイトのハンター-レイのスピンによるフルコース・コーションでピット。レース後半はブルデーを追いかけ続けた。
22番グリッドからの優勝は、もちろんミド・オハイオではもっとも後方からの優勝だ。ただし、ディクソンはCART時代の初勝利が23番グリッドからのものだった。2001年、デビューイヤーのことだ。ディクソンにとって今日の勝利はキャリア34勝目。通算勝利数はアル・アンサーJr.と歴代6位で並んだ。
佐藤琢磨はディクソンの隣りの21番グリッドからスタートした。1列前のガナッシ勢ふたりをスタートでパスしたが、その直後にカナーンに突っ込んで止まっていたアンドレッティのマシンに突っ込む不運に見舞われた。それでもマシンに決定的なダメージはなく、フロントウイングを交換してリードラップでレースに復帰した。
2回目のピットはディクソンより1周遅い11周目。しかし、そこからのスティントが少々長過ぎ、ガス欠に。ディクソンは31周でピットしたが、琢磨は37周目のイエローが出されたタイミングでコース上にストップと、5周も多く走っていた。これで1ラップダウンに陥り、それを挽回することなく18位でゴール。ガナッシ勢3人が優勝、7位、8位という好結果を残したレース、琢磨にも同じくチャンスはあったはずだ。最初のアクシデントはリカバーできた琢磨陣営だったが、マシンのスピードは不足していた上、燃費計算のミスによってチャンスを掴めなかった。
ポイントリーダーのエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)はエンジン・マネジメント・システムの設定ミスから4周遅れの19位。6番手スタートから6位フィニッシュしたウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が548点でランキングトップに立った。カストロネベスは4点差、544点で2位だ。3位はハンター-レイが辛うじてキープ。スピンして18番手まで落ちながら10位まで挽回してフィニッシュして485点にポイントを伸ばした。そして、ランキング4位は今日9位フィニッシュだったサイモン・ペジナウ(シュミット・ピーターソン・ハミルトン)。彼はハンター-レイと1点差の484点だ。ディクソンは今日の優勝で440点までポイントを伸ばし6位に。ここからどこまでランキングを上げるか注目だ。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)