2014年07月31日 11:20 弁護士ドットコム
あなたの「死後」をインターネットでサポートします――。ヤフーは7月半ば、利用者が亡くなった場合に、葬儀社の手配をしたり、ネット上の利用サービスを自動停止したりするサービス「Yahoo!エンディング」を開始した。
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ヤフーの発表によると、死亡が確認された段階で、生前に利用していたYahoo!関連のサービスなどを自動停止する。たとえば、ネット上に個人のデータを保存できるオンラインストレージ「Yahoo!ボックス」では、データが自動的に削除されるという。さらに「生前準備」として、自分が死亡した際、親しい人たちに自動送信される個別メッセージも、最大200人分を作成できる。
ネットサービスでも、人生の終わりに備えた「終活」への対応が始まったことは興味深い。ただ、突然、何の備えもないまま亡くなる人も少なくない。たとえば、「Yahoo!ボックス」内に秘密のデータを保管していた人が、こうしたサービスを使わないまま、ある日突然、死亡した場合、データはどうなるのだろう。内田公志弁護士に聞いた。
「『Yahoo!ボックス』のようなオンラインストレージ内のデータの管理は、契約申込者(利用者)とサービス事業者の間の契約に基づいて処理されます。この場合の契約とは、一般的に、データに関する保管場所をサービス事業者が提供するというものです。
法的に説明すると、一種の『管理委託契約』と呼ばれるもので、この契約は、データの保管をサービス事業者に委託した利用者の『死亡』により終了すると考えていいでしょう(民法656条、同653条1号)」
とすると、データは自動的に消去されるのだろうか。
「いいえ。契約は終了しても、その精算業務が問題となります。原則として『預けたデータの返還を求める権利が発生し、その権利を相続人が承継する』と考えられるのではないでしょうか。
特に個人事業主が、事業の経理データをオンラインストレージで管理していた場合を考えてみましょう。本人が死亡した際に、その経理データは、個人事業の相続人に承継されない、という解釈を採用するのは実務的に不都合でしょう」
ただ、事業のようなデータではなく、誰にも知られたくないような、きわめて個人的なデータの場合はどうなるのだろうか。相続人が引き継ぐことができるのだろうか。
「そうですね。このあたりは議論の余地があるところです。最高裁判所の判例はまだ出ていません。判例が出るまでは、『絶対にこうなります』と断定することはできません」
「ただ、こう考えてみてください。現実の世界で、貸金庫の中に、家族に秘密で保管したかった『恥ずかしい文書』を保管していても、銀行としては返還するのが原則です。これと同じものだと考えて良いでしょう」
バーチャルであっても、リアルと同じ場面に置き換えると想像しやすい。では、どんなデータでも相続人に見られてしまうのか。
「今回の『Yahoo!エンディング』のように、あらかじめ申込者の死亡時に『亡くなったことが確認されるとYahoo!ボックス内のデータを削除する』などと定めている場合は、契約の効力が優先すると思います」
とすると、家族にも知られたくないデータがある人にとっては、「終活」も切実な問題になるかもしれない。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
内田 公志(うちだ・ひろし)弁護士
京都大法学部卒。1986年、弁護士登録。外国企業との合弁契約、ライセンス契約等の英文契約の作成のほか、会社法関連、特許関連訴訟及び瑕疵担保・製造物責任関連の技術訴訟などが専門。
事務所名:弁護士法人内田・鮫島法律事務所
事務所URL:http://www.uslf.jp/