トップへ

カラースプレーで花火の「場所取り」 こんな自分本位の手法は認められるのか?

2014年07月30日 12:01  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

荒川の河川敷で7月19日に行われた東京都足立区の花火大会。今年も多くの人が訪れ、夜空に咲く花火を楽しんだ。しかし、花火大会以上に話題になったのが、「カラースプレー」を利用した場所取りだ。その方法は、花火を眺める絶好のスポットとなる土手の芝生にスプレーを吹き付けて周囲と区切り、その中に自分の名前を書き込むといったものだ。


【関連記事:「業界の空気が変わってほしい」連載を取り消された漫画家・やまもとありささんに聞く】



報道によれば、足立区は「芝が傷む上に河川敷の使用に支障が出る」としてこうした場所取りをやめるよう呼びかけていた。ツイッター上でも、「ひどい!同じ足立区民として、とても恥ずかしいですね」「しっかり取り締まらないと、別の場所、来年も…やる人間がでるのだろう。 ハァー…(;-_-)=3」と、こうした自分本位な場所取りに非難の声が上がった。



しかし、そもそもの前提として、こうした場所取りに法的な意味はあるのだろうか。スプレーで区切って名前を書けば、「自分がこの場所を占有してる」と、他の人に主張することができるのだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。



●カラースプレーで区画を描いても「占有権」は成立しない


「このような場所取りは、『この場所を自分が占拠しているので、他の人がここを利用することはできない』と考えてするのでしょう」



こうした考えを法的には『占有訴権』と呼びます。『ある場所を占有している人が、その占有を妨害されたとき、その排除を請求できる』というものです」



法的な権利ということは、場所取りをした人は他の人に「ここは私の場所だ!」と言えるのだろうか。



「場所取りをしたからといって、ただちに、そういえるわけではありません。そもそも占有権が成立しているか判断する必要があります。占有権が成立するには、『自己のためにする意思をもって、物を所持すること』が必要です(民法180条)。



ここでいう『所持』とは、物に対する事実上の支配をいい、必ずしも物理的に手で持っている必要はありません。しかし、社会観念上、物がその人の事実的支配内にあると認められる必要があります。たとえば、店舗経営者が店舗前面の市道を清掃したり、看板・空き瓶・空き箱を置いているからといって、同市道について排他的な占有権を取得できるわけではありません(東京地裁判決昭和36年3月24日)。ちなみに『物』といっていますが、不動産もふくまれます」



今回の事例は『所持』といえるだろうか。



「カラースプレーで区画を描いたからといって、その区画の部分が『その人の事実的支配内にある』とまでは言えないでしょう。ですから、占有権は成立しないと考えられます。『ここは自分だけが利用できるからよけてくれ』なんて言えません」



大久保弁護士はこのように述べていた。つまり、カラースプレーで芝生に「自分のスペース」を描いたとしても、法的には「無意味」ということだ。まだまだ各地で花火大会は予定されている。「自分だけ特等席で花火が見られれば良い」という自分勝手な考えは、控えたほうがよさそうだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
大久保 誠(おおくぼ・まこと)弁護士
ホームページのトップページに写真を掲載しているように、野球が趣味です。
事務所名:大久保法律事務所
事務所URL:http://www.ookubolaw.com/