夏休み前最後の1戦となったハンガリーGP。優勝を手にしたのはレッドブルのダニエル・リカルドでした。自身2度目のトップチェッカーであります。しかし、スタート前はもちろん、レース中盤まで、リカルドが優勝するなどとは、思いもしませんでした。彼の勝因を、検証してみることにしましょう。
リカルドの勝利を検証する上で欠かせないのは、“なぜニコ・ロズベルグは勝てなかったのか?”ということ。圧倒的な速さのマシンを駆り、唯一のライバルであるチームメイト、ルイス・ハミルトンもピットスタートとあっては、いくらウエットコンディションでも、不安要素は見当たりませんでした。実際にスタート直後は快調に飛ばし、8周で2番手のバルテリ・ボッタスに10.5秒もの大差を付けていました。しかし、結果は表彰台すら逃して4位。レースを細かく見てみると、彼が勝利を逃すことになったいくつかの“ポイント”が見えてきました。
まずひとつめは、最初のセーフティカー(SC)出動のタイミングです。SC出動時、ロズベルグは既に最終コーナーを立ち上がり、メインストレートを走っていました。路面はすでに乾きはじめていたため、多くのマシンがすぐさまピットインしてドライタイヤに交換。しかし、首位のロズベルグから4番手のフェルナンド・アロンソまではピットに入ることができず、リカルドらの先行を許してしまいます。
これだけなら、ロズベルグはおそらく挽回できたでしょう。しかし、SC解除直後に、ふたつめのポイントがありました。それが、15周目にジャン-エリック・ベルニュにオーバーテイクを許してしまったことです。この頃のロズベルグはブレーキに不具合があり、ペースを上げられずにいました。その隙を突いて、アロンソとベルニュが先行。アロンソはどんどん差を広げていきますが、ロズベルグは遅いベルニュに前を抑えられ、先行車との差をみるみるうちに広げられてしまいました。しかも、ベルニュのブロックは巧みで、なかなか抜くことができません。ここで、3つめのポイントがやってきます。それはベルニュを“アンダーカット”したことです。
32周目、ロズベルグはピットインを先に行ってベルニュの前に出ようとします。ベルニュはロズベルグの2周後にピットイン。確かにロズベルグは、ベルニュの前に出ることには成功しましたが、ベルニュがいなくなったことで、同じく抑え込まれていたハミルトンと、タイヤを交換して後方に下がっていたリカルドのペースが上がり、ふたりの先行を許してしまうことになります。
今回持ちこまれたタイヤはミディアムとソフトでしたが、両者の性能を比較すると、ソフトの方がミディアムよりも圧倒的に速かった。ピレリの発表によると、その差は1周あたり約1.6秒。実際今回のレースでも、ウイリアムズやレッドブルには、約2秒程度の差が生まれていたようです。しかしその反面、ミディアムのデグラデーションはほとんどないのに対し、ソフトは1周あたりレッドブルで0.12秒、ウイリアムズは0.3秒ものデグラデーションが発生していました。
この日2度目のタイヤ交換で、ハミルトンはミディアムを履いて先行。ロズベルグはソフトを装着し、前を走るハミルトンを追うという展開になっていました。メルセデスAMGもソフトタイヤの方が速いのは同じで、ロズベルグはハミルトンとの差を徐々に詰め、45周目にはほぼ真後ろという位置まで迫ります。チームはハミルトンに対して「ロズベルグを先行させろ」と指示しますが、なかなか応じず。結局ロズベルグが先行することはなく、ハミルトンの後ろのまま、最後のタイヤ交換に向かいます。
ハミルトンに抑えられた時点で、ロズベルグの勝機は断たれました。それでも、まだ表彰台の可能性は残されていましたが、次のポイントでその可能性も潰えます。それは、“最後のピットストップのタイミング”です。
ロズベルグは56周目に最後のピットインを行いましたが、コースに復帰したのはマッサとライコネンの後ろ。結果、彼らのペースに4周ほど付き合わされ、1周約1秒ずつ、先頭からの差が開いてしまいました。その後のロズベルグのペースを考えれば、失ったタイムはもっと大きいかもしれません。あと2周、場合によっては1周でもピットインを遅らせれば、ロズベルグがふたりに前を抑えられることなくタイヤを交換でき、ハミルトンやアロンソと、もっと戦えたはずです。
以上のような要因で、ロズベルグが戦前はほぼ確実に彼の手中にあった勝利を逃してしまいました。そして、リカルドの優勝も、アロンソの2位も、ロズベルグの敗因と表裏一体となっています。
リカルドは最初のSCが彼にとっては完璧とも言えるタイミングであり、ベルニュが多くのマシンを抑え込んだことでタイヤ交換時のポジションロスが少なく、終盤もアロンソがハミルトンを抑え込んだために容易に追いつくことができ、勝利を手にすることが出来ました。ハミルトンとアロンソ相手に見せたオーバーテイクは、実に見事でした。レースの展開が彼に味方したのも事実ですが、リカルドのそんな集中力、そして戦略を完璧に遂行できる能力が、運を引き寄せたのでしょう。
アロンソは、15周目にベルニュとロズベルグを抜いたこと、そして最終盤に完全に使い切ったタイヤでハミルトンを抑え込み、自らの腕で2位をもぎ取ったと言えそうです。
ハミルトンは、SC出動により常に隊列が接近した状態になり、オーバーテイクで順位を上げることができました。彼がコース上で抜いた台数は実に12台。そして2回目のSCラン終了時点では5番手につけており、ここからは他車のピットインに乗じて順位を上げ、ピットレーンスタートから3位まで順位を上げてフィニッシュすることになりました。ハミルトンも“展開が向いた”と言えそうです。
他のドライバーたちについても、簡単に振り返っておくことにしましょう。
5位フィニッシュのフェリペ・マッサは、リカルド同様1回目のSC出動時にすぐさまピットに入ることができたため、順位を上げました。しかし、その後ミディアムタイヤを履いたためペースが上がらず、この順位。チームメイトのバルテリ・ボッタスの最終スティントのペースを見ると、ウイリアムズがいくら「ミディアムの方がバランスが良い」と言ってもやはりソフトの方が速く、マッサがソフト→ソフト→ソフトと繋いでいれば、より上位に近付いていた可能性があります。
これは、7位のセバスチャン・ベッテルにも、そして8位のボッタスにも言えること。もし彼らもミディアムを使わず、ソフトタイヤを多用する正攻法でレースを戦っていれば、上位はさらに混戦となり、レースがより面白くなっていた可能性もあります(もちろん、ベッテルは終盤のスピンが痛かったですが……)。
途中、ロズベルグらを抑えに抑えたベルニュは、後半のペースが悪く9位。しかし、彼のおかげでレースが面白くなりました。今回の敢闘賞に値する活躍だったと言えるでしょう。10位バトンは最初のタイヤ交換で再びの降雨を予想してインターミディエイトを履いてしまったのが最大の失敗。しかし、ドライタイヤに履き替えてからのペースは遅く、もし最初の失敗がなかったとしても、良くてベルニュの前という位置が精一杯だったでしょう。
本稿、非常に長くなってしまいました。しかしそのくらい多くの要素があり、それぞれがリザルトに影響を及ぼしたということ。そしてその結果、見た目上も非常に面白い激戦を、我々に見せてくれました。夏休み前最後のグランプリ、皆様満足されたのではないでしょうか?
次のグランプリは約1ヵ月後。ベルギーはスパ・フランコルシャンでの超高速決戦です。当然メルセデスAMGは速いでしょうが、ここはやはり“直線番長”ウイリアムズの出番でしょうか。またも手に汗握る、非常に見応えあるレースが見せてくれるはず。そんな期待を胸に、待ち遠しい1ヵ月を過ごすことにしましょう。