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新連載:長谷見昌弘のレースドライビング教本(2)「最初に選ぶべきカテゴリー」

2014年07月24日 10:50  AUTOSPORT web

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現役のトップドライバーの多くも、カートからレースの世界に入っていった。写真はルイス・ハミルトンが1995年の英国選手権を勝った時のモノ。カーナンバーは今年と同じ「44」だ。
第2回:最初に選ぶべきカテゴリー

 さて、家族の理解も得られた。まずまずの活動資金も貯まった。では、レースを始めるにあたってどういうカテゴリーを選べばいいのだろうか? 最近ではカートレースに参加する子供が多いが、カートはレースの原点とも言えるカテゴリーで、長谷見も勧める。

 かつてはバイクレースからクルマに移った人も多くいたが(長谷見本人もそう)、今は両者は接点がない。バレンティーノ・ロッシがフェラーリF1を走らせたが、まったく通用しなかったのがいい例だ。4輪のレースを始めるにはカートが最適だろう。年齢も問題にならない。

 カートがレース開始に適しているのは、サスペンションが無い分クルマの動きがダイレクトで、ドライバーがクルマの動きの基本を身体で学べるからだ。子供の頃からクルマの動きを身体で理解できれば、上級カテゴリーに上がった時に大いに助けになるだろう。ただ、カートを始める時期によって、あるいはそこから先の活動を考えることによって、その後参加するカテゴリーを決めることになる。

 カートから本格的な4輪レースに移る時、どのカテゴリーを選べばいいのだろうか? 「遊びで楽しむ人は何に乗ってもいいが、本気でレース活動を考えるなら、FFのワンメイクはやめた方がいい。FF車の何がダメかと言えば、駆動が前輪にかかるため、反応が鈍くて舵角が大きくなってしまうから。そうしたクルマを運転すると、荒いテクニックになる」と長谷見は断言する。

 トップクラスのレースにFF車によるカテゴリーがないことを考えてみれば、それはすぐにわかることだ。クルマの基本はやはりFR(フロントエンジン・リヤドライブ)である。こういう話をよく聞かないだろうか? 「このFF、随分と扱いやすくなったね」という声だ。つまり、扱いやすくなったFFとは、運動性能がFRに近づいたということ。それは最初からFRこそクルマの基本であるということに他ならない。

 そして、長谷見はカートを卒業して本格的にレースに取り組みたいなら、やはり下位カテゴリーのフォーミュラカーに乗ることを勧める。

「フォーミュラカーは上手い下手がすぐに分かります。FFのワンメイクレースだとたまに良いエンジンが当たると、上手いように錯覚する。タイムが出ますからね。そして、楽に勝ててしまう。これは問題です。クルマが良かっただけでドライバーに実力があったわけではない。だから、入門フォーミュラレースとか、もっと基礎から学ぼうと考えたら、自動車メーカーやサーキットが行っているスクールなんかに入ることです。そうすれば実力がすぐに分かるので、本格的にレーシング・ドライバーを目指そうか、あるいは諦めてレースを楽しむ方向に行くか決められます」

 何度も言うが、レースはお金がかかる。親が豊富な資金でバックアップしてくれる道楽息子ならまだしも、少ない資金で頑張ろうと思っている人には、早い時期に自分の才能を見極めることのできるスクールなどに加入し、第三者に判断して貰った方がいいだろう。誰でもトップ・ドライバーになれるというものではないことを知ることも重要だ。

 次回からいよいよ本格的なレース・ドライビングの話に入っていこう。

長谷見昌弘:1945年東京都青梅市生まれ。兄弟の影響でモトクロス愛好会に入り、数々の草レースに出場。16歳、公式戦参戦わずか2戦目で初優勝を飾る。その後四輪レース転向を目指し、19歳で日産とプロドライバー契約を締結。四輪レースの活動を本格的にスタートさせる。1976年F1世界選手権イン・ジャパンの出走(コジマKE007)や1992年デイトナ24時間耐久レース(日産R91CP)での優勝など、記憶に残るレースは枚挙に暇がない。活動の場もツーリングカー、グループA、グループC、F1を含む各フォーミュラ、ラリーと幅広く、日本随一の理論派ドライバーとして知られている。2000年で現役から退き、以降はハセミ・モータースポーツの代表を務め、自らが監督を務めるチームでスーパーGT等に参戦。2011年からはNDDP(日産ドライバー育成プログラム)の監督として、自身の経験に基づき、若手の育成に当たっている。