スーパーGTをプロモートするGTアソシエイションの坂東正明代表は、20日行われたGTA定例記者会見の中で、7月19日~20日に行われたスーパーGT第4戦SUGOからマシンの正常進化、および性能調整(BoP)が変更されたGT500クラスのホンダNSXコンセプト-GTについて、その変更と改良の理由について語った。
今季、GT500クラスはDTMドイツツーリングカー選手権と車両規定を統一化。共通モノコックをはじめとした多くの共通パーツを使用したFRレイアウトの新規定を採用しているが、ホンダは市販が予定されているNSXコンセプトをベース車とし、市販車同様のミッドシップレイアウトとハイブリッドを搭載したNSXコンセプト-GTで参戦した。
坂東代表は、改めて今季の規定の中でNSXコンセプト-GTを採用したことについて、「もともと『ひとつのルールでやろう』と2009年に決めたFR、統一排気量のエンジンで行うという話でやってきた。その中で、今季DTMとコラボレーションするとともに、ホンダさんとの話し合いの中で、ホンダさんの生産ベースの車両というものがミッドシップのハイブリッドだった」と説明した。
「できるだけメーカーのためにも、その前にできたCR-Zやプリウスといったものをのぞき、生産車のエンジン搭載位置はきちんと守っていこうと。我々はレクサス、ニッサン、ホンダという3メーカーでGT500のレースをやっている」
「その中で、ホンダの生産車はミッドシップのハイブリッドだと。その意向を重々理解した上で、この車両は『JAF-GT500』として出そうした。ただしDTMとの規則統合の中で、なるべくコストがかからないように、リヤにエンジンがあろうとも一緒のものを使ってレースをやっていこうとした。そうして今季スタートした訳ですが、この中でリヤエンジンに対する熱害の問題が大きく出ました」
●“正常進化”の主眼は熱害対策
もともとこの新規定で採用されている多くの共通パーツはFRを前提としているもので、ホンダはミッドシップのNSXコンセプト-GTの製作にあたり多くの技術的チャレンジを要求されている。特に第2戦富士では、坂東代表の説明にもあったとおり、ターボエンジンの熱害に起因するトラブルに悩まされた。
ミッドシップ車はリヤにエンジンを搭載するため、FR車に比べ熱を冷やすための空気が取り入れづらく、熱害、冷却に関するトラブルはNSXコンセプト-GTに多く発生。安全機構が作動し相次いでコース上にストップし、冷ませば安全機構が解除され動き出すといった状態が見られた。当然、エンジンを安全に動かすためにライバル同様パフォーマンスを出し切ることが難しく、スピード不足の一因となっていた。
これに対し、GTアソシエイションでは第4戦SUGOから、“正常進化”という形で、フロントグリル、リヤバンパー、リヤウインドウの開口部の拡大・追加、エンジン吸気ダクトのレイアウト変更、エキゾーストパイプ冷却ダクトおよびターボ冷却ダクトの大型化、リヤウインドウのCFRP化を認める変更を行った。今季からのGT500規定では一度シーズン前にホモロゲーションを受けた後は、ボディに改良を行うことは認められておらず、この改良の許可は、新規定GT500の初年度ならではのものと言えるだろう。
「NSXコンセプト-GTのリヤウインドウのポリカーボネートがゆがんで見えるという現象がカメラマンの方からもあったとおり、そこまでの熱がリヤの室内にあった。ただその風の抜けが、今の規則ではできなかった。では、そこはJAF-GT500車両として熱害対策をして、風の流れを少しでも考慮してあげて、みんなで戦えるレースを作りましょうという意味合いもあり、今回のBoPにおいて改良しました」と坂東代表。
「インタークーラーの位置も大きさも、メーカーも変わっています。これがどれくらいの効果があったのか。本来であれば、今回のSUGOがもっと暑ければきちんとした結果がどうだったのか出たと思いますけど、あの天気ではそれがなかなか出てこなかった」
●BoPの変更は3メーカーの車両を再チェック
一方、NSXコンセプト-GTについては、ハイブリッドユニット搭載分の70kgというBoPも変更されている。開幕当初は他車の1020kgに対し1090kgの最低重量が定められていたが、これが13kg軽減され、1077Kgとなった。これについても坂東代表は、その経緯を説明した。
「今までの調整と、70kgのウエイトの部分に関する慣性モーメントを、GT500クラスの3車すべて計りました。これは異例なことですが、ホンダの研究所の中にレクサスとニッサンのマシンを持っていき、ホンダ立ち会いのもとでNSXも含めてチェックししました」
「計算の仕方とかが違うので、こちらで判断して均等になるよう行いました。その結果として、今まででの慣性モーメントやハイブリッドの回転数、モジュールの計算も含めてやった結果、マイナス13kgというものが数字上に出てきて、今回のBoPになりました」
これらの調整と新エンジン投入の成果か、ホンダNSXコンセプト-GTは7月20日に行われたスーパーGT第4戦SUGOで、5台全車が予選でトップ10入り。また、決勝でもKEIHIN NSX CONCEPT-GTが3位表彰台を獲得した。ホンダの松本雅彦プロジェクトリーダーも「熱害対策によって、エンジンが本来持っているパフォーマンスを出せるようになりました」と語っている。
ただし、今回のSUGOは雨ということもあり、ウエットタイヤが全体の性能にもたらす影響も大いにあったと言える。NSXコンセプト-GTの実際のパフォーマンスは、次戦富士、そして鈴鹿で真価が問われると言っていいだろう。坂東代表は今後もBoPについては状況を見ていくと語っている。とは言え、ファンにとっては三つ巴の戦いが本格的になってきたことは歓迎すべきポイントだろう。