ホッケンハイムに到着した可夢偉は、いつものようにガレージに行って、メカニックたちとあいさつを交わした。その時、可夢偉は思わず、こうつぶやいたという。
「みんな、生き残っている」
可夢偉がそうつぶやいたのは、ドイツGP直前にチームで大胆なリストラが断行されたからである。不安な気持ちでホッケンハイムへ向かった可夢偉。ガレージで自分を担当するエンジニアやメカニックの顔を見て、思わず安堵したのである。しかし、チームのリストラはこれで全てではない。「チームが生き残るには、聖域なきリストラが必要である」と新しくチーム代表になったクリスチャン・アルバースは語る。
可夢偉を担当するスタッフに変化はなかったが、ピットウォールに座るスタッフは、大幅に刷新された。事実上の現場責任者となっていたヘッド・オブ・トラックオペレーションズのゲイリー・ヒューズと副テクニカルディレクターのジョディ・エギントン、そしてチームマネージャーのグラハム・ワトソンが姿を消した。
代わりにヘッド・オブ・トラックサイドエンジニアリングとして加わったジャンルカ・ピサネッロは、トヨタ時代にトゥルーリのレースエンジニアを務め、昨年までケータハムのレースエンジニアとして活躍していた人物。今シーズンはチームの都合で、ファクトリーをベースに仕事を続けていた。また新しくチームマネージャーに就いたミオドラッグ・コタールは、ジャン・トッドがフェラーリの監督を務めていた時に、ロジスティック部門のトップを任されていた経験豊富な人物。今回のドイツGPは、可夢偉にとって新しいスタッフとともに臨んだ初めてのグランプリだった。
しかし、新しいスタッフの不手際によるトラブルなどはほとんどなく、可夢偉は67周のレースを何事もなかったように乗り切った。ポイントも取れず、トップから2周遅れに終わったレースだったが、これは生き残ったスタッフで戦ったデビューレース。マシンのアップデートはまだ先だが、スタッフは一戦ごとに力をつけていくはず。1週間後のハンガリーGPを楽しみにしたい。
(尾張正博/F1速報)