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「業界の空気が変わってほしい」連載を取り消された漫画家・やまもとありささんに聞く

2014年07月20日 11:31  弁護士ドットコム

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予告されていたマンガ連載が、公開のわずか2日前に取り消された――若手女性漫画家やまもとありささんがブログでこう告白し、大きな話題となった。『進撃の巨人』の作者・諫山創さんも、この件について「信じられないことがおこりました」とブログで言及した。


【関連記事:マンガの初連載が「開始2日前」に取り消された!「原稿料」は払ってもらえるのか?】



やまもとさんは、6月29日からコアミックス社が運営する「WEBコミックぜにょん」で、連載を開始する予定だった。ところが、同社の編集部から、6月27日に「連載を取り消す」という連絡を受けたのだという。



今回の連載取消しは、いったいなぜ起きたのだろうか。何が「信じられない」ポイントだったのだろうか。やまもとありささんに話を聞いた。



●おどろいて、落ち込んで、腹が立ってきた


――連載取消しの連絡を受けた時の心境は?



「『こんなことがあるんだ』という思いで、まず、笑ってしまいました。初めての連載ということで、いろんなところに宣伝していました。地元で応援してくれた友達もいました。自分としても、漫画家としての本当のスタートラインと考えていました。



3月くらいからずっと作業して、その時から6月29日の連載開始が待ち遠しかったです。『連載が始まったら、ツイッターで呼びかけて・・・』とか、いろいろ考えていました。



そうしたことが思い出されて、なんかもう、おかしかったです。その時は『まあいいや』って思ってました。2日目にようやく現実が飲み込めて、さすがに落ち込みました。3日目になると、やっと腹が立ってきました(笑)」



●連載になれば「単行本」が出る


――これまでも、やまもとさんはメジャー誌に読み切り作品を掲載されています。読み切りと連載との違いは?



「連載となると、『単行本が出る』のは、かなりうれしいです。印税が入るということもありますが、それ以上に、『店頭に自分の本が並ぶ』ことが大きいです。単行本は、これから先の名刺代わりになって、次の仕事につながっていくものだと思うので」



――編集部側との契約はどうなっていましたか?



「いままで、契約書が交わされるということはありませんでした。口約束です。先方から『描いて』って言われたら描きます。



お金のことも口約束です。そもそもお金の話が出ないということも多いです。漫画を描いた後になっても、いくら払われるかわからないこともあります。私の場合は、『●●円だよ』って言われていた金額と、全然違う額が振り込まれていたことがありました」



――なぜキチンと契約を結ばないのですか?



「よくわからないですが、『先輩作家さんたちも、そうしてきたので』という空気を感じます。漫画家がお金のことを話すのが、はばかられる空気を感じるのです。



わたしは、仕事としてやらせてもらうなら、金額のこともしっかり聞きたいし、ちゃんとしたいのですが、なんとなく聞きづらいのですね」



――そうした空気が変わってほしいですか?



「変わってほしいです。『紙一枚でも書いてくれれば』と思います。変わってほしいと思っている若い作家さんはたくさんいると思います。



人気のある作家先生だと、ご自分で契約書を書いて、編集者に提出するとおっしゃっている方もいました。でも、新人の立場だと、そういうことは言いづらいです。どうしても下手に出てしまいます。



自分の漫画が掲載されるということは、舞い上がってしまうくらいうれしいことで、『載せてもらう』という気持ちになってしまうので」



●表現の「自主規制」がどんどん厳しくなっている


――連載を取り消された理由を話してもらえますか。



「コアミックス社では、徳間書店に委託して、WEB連載された漫画を単行本化するのですが、その徳間書店が、わたしの漫画は有害図書の指定にあたる可能性があるため、出版できないと判断したようです。それで、編集部も『出版できない作品を連載させても意味がない』と判断して、連載の取り消しを決めたようです」



――具体的にどういった表現が「有害図書指定にあたりうる」と判断されたのですか。



「具体的にどこの表現がダメだと言われたわけではありません。ただ、作品自体が『有害図書指定にあたりうる』と判断されたと伝えられました。



――事前に編集者と、問題となりそうな表現について打ち合わせなどはしなかったのでしょうか?



「描き手としては、表現に歯止めをかけて描くのはどうかと思ったので、やりたいように描いて渡しました。それから『どうですか?』と聞いたら、『ぜんぜん行ける』という返事で、連載会議も通ったので、その時点では安心していました」



――描き手として、表現内容を制限されるという事態を、どう感じているのでしょうか。



「表現に対する自主規制はどんどん厳しくなっていると思います。漫画を描いていても、とても窮屈に感じることがあります。30年前に少年誌に載っていた作品でも、いまの自主規制の基準からすれば、掲載できない作品があるのではないでしょうか。



もっと、人の色々な感情を呼び覚ます作品があっていいと思います。正の感情ではなく、負の感情も含めて。家族の大切さを描くのに、仲の良い家族・幸せな家族を描くことだけが正解ではないでしょう」



――連載が取り消された漫画の第1話を無料公開していますが、反響はありましたか。



「『気持ち悪い』とか、『不快な漫画だった』という感想をもらうことがあります。でもそれも反応のひとつ。人の感情を揺さぶったということに変わりありません。『気持ち悪い』と言われたら、『(作品として)成功だ!』と思います。そうした感情を引き出す漫画があってもいいはずです。世の中が『見せたくない』と思っていることを見せていきたいです」



やまもとさんの作品は「漫画onWeb」というサイトで読むことができる。


http://mangaonweb.com/creatorOCComicDetail.do?no=34095&cn=96338


(弁護士ドットコム トピックス)