グランプリウイークエンドで最も忙しいのが、土曜日のお昼時である。なぜなら、予選に向けてメカニックたちは車体の整備を行い、エンジニアは戦略の確認をし、ドライバーたちはランチや予選に向けての休息を取り、集中力を高めなければならないからだ。
したがって、フリー走行3回目が終了する12時になると、各自が熟さねばならぬ仕事を開始する。エンジニアはピットウォールからコンピュータを持ってエンジニアリングルームへ移動し、ドライバーはモーターホーム内にあるプライベートルームに籠る。
ところが、ドイツGPのフリー走行3回目を終えた後、ピットウォールに数人のスタッフが残ったままのチームがあった。ケータハムである。彼らは、フリー走行3回目が終了してピットインしようとした際、車検に引っかかった可夢偉が歩いて帰ってくるのを待っていたのである。可夢偉が帰ってくると、新しくチーム代表も兼務することとなったクリスチャン・アルバースと数名のスタッフが可夢偉を囲んだ。
ちょっとした確認でもするのかな、と思って見ていたら、アルバースと可夢偉の話し合いはなかなか終わらず、結局5分ほど続いた。予選前の忙しい状況を考えると、あまり見ない珍しい光景だったので、筆者もしばらくそこに立ち止まり、事の成り行きを見守っていた。
予選後、可夢偉にどんな話をしていたのかと尋ねると、可夢偉は「特に何も」と少し話をはぐらかした後、「どうして金曜から土曜にかけてマルシャが速くなったのかということになどについて、話し合っていたんです」と打ち明けてくれた。その話を聞いて、筆者は今の可夢偉が抱えるポジティブな面とネガティブな面を見たような気がする。
まずはポジティブな面。それは新しいチーム代表が意見を請うほど、可夢偉が信頼を得ているということだ。そこにはF1ドライバーを経験した者でないと分かり合えない信頼関係のようなものが存在するのではないだろうか?
一方ネガティブな面は、可夢偉との関係とは対照的に、アルバースがまだチームとの信頼関係を築けていないのではないかということだ。マルシャが速くなった原因を尋ねる相手として適しているのは、本来なら可夢偉ではなくデータを多く持っているエンジニア。しかし、アルバースはエンジニアではなく、可夢偉に聞いた。アルバースはつい先日、エンジニアをはじめとするスタッフ40名以上を解雇したばかり。そして、それはただの始まりであって、今後再びリストラを断行する可能性があるのではないかということだ。
もちろんこれは筆者の個人的な見解であって、事実とは異なるかもしれない。しかし、可夢偉が2年ぶりに走るホッケンハイムリンクでのレースは、いつもと違うエンジニアリング体制でスタートが切られることになる。
(尾張正博/F1速報)