2014年07月19日 13:21 弁護士ドットコム
今年4月に増税された消費税は、収入の低い人ほど負担が重くなる「逆進性」があるとされる。その負担はどうしたら軽くできるのか――。中央大学経済学部の長谷川聰哲(としあき)教授が唱えるのは、「軽減税率」の導入という案だ。
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軽減税率とは、食料品をはじめとする生活に不可欠な商品について、税率を低く抑えようというものだ。消費税が5%から8%に引き上げる際には見送られたものの、与党内でも導入は前向きに検討されている。
昨年12月に自民・公明の与党2党がまとめた「平成26年度税制改革大綱」では、10%引き上げ時に軽減税率を導入することや、その具体的な内容を検討して1年以内に結論を出すことが盛り込まれた。それを受けて、与党内で検討が進められている。
東京都内で7月5日に開かれた講演会で、長谷川教授は、軽減税率の導入によって、収入の低い人々の消費税負担を減らせることを、データを交えて説明した。
長谷川教授がサンプルとして示したのは、2009年の消費支出額のデータだ。年収が174万円以下という低所得者層について見ると、1カ月の平均収入が9万8250円であるのに対して、消費支出は12万4320円なのだという。つまり、収入よりも支出が多い赤字世帯であり、日々の生活が極めて厳しい状況にあることが想像される。
長谷川教授によると、この「年収174万円以下」の層では、消費支出の中で食料品の占める割合が、他の所得層よりも大きいという。そこで、食料品に対して「軽減税率」を導入すれば、このような低所得層の消費税負担を特に減らせるというわけだ。
だが、軽減税率を導入すれば、当然ながら税収が減る。その穴埋めの方法として、長谷川教授は、「高額所得者がよく購入する商品の消費税率をさらに高くする」という私案を紹介した。
高級な商品の税率を10%よりも高く設定することで、一律に10%の消費税を課したときと同じ額の税収を確保すればよい、という考え方だ。ドイツやフランスでは、このような複数の種類の税率を採用している。長谷川教授は、「ヨーロッパの多くの国が具現化してきた軽減税率導入のノウハウを学ぶべきだ」と強調した。
しかし、軽減税の導入には異論もある。7月2日には、経団連を含む9団体が、消費税の複数税率導入に反対する意見を発表した。
このうち、「対象品目の線引きが不明確で、国民・事業者に大きな混乱を招く」という反対意見に対して、長谷川教授は「制度を改革すれば、変化は当然起こる」などと反論するととともに、低所得者が生活を維持できる仕組み作りの必要性を重ねて主張した。
また、日本スーパーマーケット協会も7月3日、軽減税率の導入に反対する方針を発表している。理由の1つとして、商品ごとに税率が違うとレジ作業が煩雑になることを挙げている。
これに対して、長谷川教授は「(複数税率を導入している)諸国で発行されるレシートには、自動的に商品ごとの税率が印字されている。日本でもPOSシステムを導入しており、不可能ではないはず」と指摘した。
そもそも、軽減税率を導入すべきなのか。もし導入するとしたら、どのような仕組みにすべきなのか。軽減税率をめぐる議論はまだ熟しているとはいいがたい。国民全体にかかわることなので、今後の議論のゆくえに注目する必要があるだろう。
(税理士ドットコムトピックス)