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父を決めるのはDNA鑑定より「法律」が優先――母の弁護士「誰の利益にもならない」

2014年07月17日 21:01  弁護士ドットコム

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父子関係を決めるのは民法なのか、DNA鑑定なのか。DNA鑑定で血縁関係がないと証明された場合、法律上の父子関係を取り消せるのかどうかが争われた3件の訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は7月17日、科学的に父子でないことが証明されたとしても、法的な父子関係を取り消すことができないとの初判断を示した。


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最高裁は今回、北海道と関西、四国で起きた3件の訴訟について判断した。父子関係については、民法772条で「妻が婚姻中に妊娠した子どもは、夫の子どもと推定する」と定められており、DNA鑑定の科学的証明があったとしても、この推定は覆せないと判断した。裁判官5人中3人が今回の判断に賛成し、2人が反対した。



報道によると、北海道と関西の訴訟では、いずれも母が子の代理人となって、夫との親子関係がないことを求めていた。子どもが生まれた当時、母と夫は婚姻関係にあったが、子どものDNA鑑定を行った結果、別の男性が父親であるとの結果が出た。1審、2審では、父子関係を取り消した。



一方、四国の訴訟については、元夫側から父子関係の取り消しを求めたものだった。妻との婚姻中(現在は離婚)に生まれた5人の子どものうち、2人についてDNA鑑定を行った結果、別の男性の子どもであるとの調査結果が出た。1、2審ともに父子関係の取り消しを認めなかった。



最高裁の判決後、関西の訴訟で母親側の代理人をつとめる村岡泰行弁護士と、北海道の訴訟の父親側の代理人をつとめる小林史人弁護士がそれぞれ、司法記者クラブで記者会見を開いた。



●母側代理人「子どもを犠牲にして、復讐心を満足させている」


関西の訴訟の母親側代理人である村岡弁護士は、今回の判決について、「(裁判官5人中3人の)多数意見は形式論理だ。反対意見は嫡出推定という形式制度の奥にあることについて深く考察している。最高裁も相当悩んだだろう」と感想を述べ、「多数意見には説得力が全くない。過去の学説をそのまま採用している」と批判した。



DNA鑑定で別の男性との間の子どもであることが証明されても、父子関係を取り消せないことについて、「子どもを犠牲にして、夫の妻に対する復讐心を満足させているとか言いようがない。歪んだ感情で子どもの一生を支配する結果になってもいいのだろうか。制度は守られたとしても、結局は誰の利益にもならない」と懸念を表明した。



同様の訴訟が起きた場合の影響については、「(今回の判決で)従来の判例を踏襲すると言っているので、どのような訴訟が起こっても同様の結論になるだろう」と述べた。



ただ、今回も1審と2審では、取り消しを認める判決が出ている。そこで、村岡弁護士は「時を待って、最高裁の(裁判官の)構成が変わると、(結論が)変わる日がくるかもしれない」「今後チャレンジする下級審の判断を願っている」と期待を込めた。



●父側代理人「親の権利を離さない人が増えるのではないか」


一方、北海道の訴訟で、父側の代理人をつとめた小林史人弁護士は、父子関係が取り消されなかったことについて、「(父親は)ホッとしている。このままだと赤の他人になる事態を回避できた」「基本的には民法の規定に従って、親子関係を構築・確定することに一定の意義が認められた」と述べた。



類似の訴訟に与える影響については、「今まではDNA鑑定が出るとあきらめて、親の立場を放棄せざるをえなかった。今後は、子どもに情がうつっているのであれば、親としての権利をおそらく離さないだろう。そういう人が増えるのではないだろうか」と述べた。



ただし、現状の制度のままでいいと思っているわけではない。「(制度の課題を)整理する必要がある。やはり、混乱が生じることは間違いない。DNA鑑定という新しい手段を踏まえたを制度を整備する必要がある」と指摘した。


(弁護士ドットコム トピックス)