2014年07月17日 13:11 弁護士ドットコム
私が死んでも会社の責任は問いません。権利は永久に放棄します――。関西の介護会社が、フィリピン人の女性職員たちにこんな誓約書を提出させていたことが7月12日、共同通信の取材で明らかになった。ツイッター上では、「奴隷とでも思っているのか」「こういうのを放置して外国人労働者を増やすとかあり得ない!」と怒りの声があがっている。
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共同通信によると、誓約書を提出させていたのは、大阪府東大阪市にある介護会社。女性たちはフィリピンでの集団面接を経て採用されていた。誓約書の内容は、「自然な状況」で本人が死亡した場合、同社を刑事でも民事でも責任追及しないというものだったという。
会社が雇用契約を結ぶ際、こうした「誓約書」に署名を求めることは許されるのだろうか。また、いったん署名してしまったら、誓約書の内容に拘束されてしまうのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
「こんな誓約書は許されるべきではありません。もし、このような誓約書に署名・押印があったとしても、公序良俗に反して無効になるでしょう(民法90条)。
契約内容は自由というのが原則です。しかし、公の秩序や善良な風俗に反する内容、つまり社会的妥当性を欠く内容の契約は、無効とされているのです」
それでは、誓約書に署名した女性職員が過労で倒れた場合は、どうなるだろう。
「この誓約書を書いた女性が、会社での長時間労働などから脳梗塞で障害を負ったり死亡したりした場合、女性やその遺族は会社に損害賠償請求をすることが可能です。なぜなら、この誓約書に、法的な拘束力はありませんから」
とくに海外からの労働者は言語の問題もあるだろうし、誓約書について公平な説明をうけなければ、会社側のいいなりになってしまいそうだ。
「そうですね。使用者と労働者との力関係は、通常の場合でも、使用者が強い立場にあります。労働者は、使用者の言うことに従わざるを得ない立場に置かれています。ですから、裁判所も、使用者が押しつけた今回のような誓約書の拘束力を認めることについては、慎重な判断をするでしょう。
今回のケースは外国人労働者でしたが、この問題に限らず、誰しも会社から誓約書を求められることがあるでしょう。たとえば、一般従業員が退職する際、同じ業界の競合他社への転職などを禁止する誓約書(競業避止義務に関する誓約書)を書かされることがあるかもしれません。
しかし、原則として、こうした誓約書の拘束力は認められません。なぜなら、職業選択の自由を侵害するなどの恐れがあるからです。労働者はその立場の弱さから、さまざまな形で法の下で守られているのです」
波多野弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com