ブラックレーを北上してシルバーストンを通り過ぎ、1時間ほどもドライブするとブリックスワース(Brixworth)にたどり着く。ここに、メルセデスのF1用パワーユニット“PU106Aハイブリッド”の開発および生産を行う、メルセデスAMGハイパフォーマンスパワートレーンズがある。約500人の従業員がF1用パワーユニットの開発と製造に携わっている。
案内してくれたのはマネージングディレクターを務めるアンディ・コーウェルだ。彼は約100人のエンジニアが働くオフィスや最新鋭の工作機械が導入された製造部門を見せてくれた後、パワーユニットのアッセンブリー(組立)ルームに連れて行ってくれた。
といっても、廊下からガラス越しに内部を眺めただけ。廊下の入口と出口には靴の裏に付着したゴミを吸着する特殊なゴムマットが敷いてある。外部からのほこりの侵入を防ぐため、アッセンブリールームの室内気圧は外気圧よりも高く設定されている。つまり、クリーンルームで作業をしているわけだ。
そんな話を聞きながら室内に目をやると、ちょうど90度のVバンク間にターボと一体化したMGU-H(モータージェネレータユニット・ヒート/熱エネルギー回生システム)をセットする様子が目に入った。作業をふたりひと組で行うのはミスを防ぐためだ。一方がコンプレッサー側を持ち、もう一方がタービン側を持って、深いVバンク間に収めていく。
噂されているように、空気を圧縮するコンプレッサーはエンジン前部、タービンホイールに排気を導くタービンはエンジンの後部にあって、長いシャフトが両者をつないでいる。MGU-Hはコンプレッサーと一体化していた。セットするとVバンクの深い位置に収まる。
タービンとコンプレッサーがこれだけ離れていれば、最も熱い部位で1000℃に達するタービンの熱がコンプレッサーに与える影響を小さく抑えることができる。それがひと目で理解できるパッケージだった。吸気の温度上昇が小さくて済めば、インタークーラーの容量も小さくでき、軽量化につながる。というメリットは理解できても、高速回転するシャフトを手なずけるのは容易ではない。
「このレイアウトに賛成したのは5%の人間だった。でも、その5%の意見を尊重したのは間違いではなかった」とコーウェルは言った。
(世良耕太/Kota Sera)