2014年07月15日 19:40 弁護士ドットコム
なぜ容疑者の肩書きは「自称芸術家」だったのか――。自らの女性器を形取った3Dプリンタ用のデータを送信したとして、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで警視庁に逮捕された女性漫画家「ろくでなし子」。新聞やテレビなどのマスメディアは、この女性漫画家の肩書きを「自称芸術家」として、「自称」付きで報道した。このことに対し、ネットでは疑問の声が上がっている。
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そもそも、警視庁が逮捕を報道発表した際の肩書きが「自称芸術家」だった。このため、多くのマスメディアがそのまま掲載したものと考えられる。これに対し、堀江貴文氏がツイッターで、「自称は酷いよね。クソマスコミ」とコメントするなど、批判の意見も多く出ている。
警視庁の広報は、弁護士ドットコムの取材に対して、「芸術家であるかどうかの裏付けがとれなかったため、『自称』を付けている。今後、変更になる可能性もある」と説明している。ただ、女性漫画家のやっていることが「自称」ではなく、「芸術」と認められるかどうかは、今後、裁判の論点になる可能性がある。弁護士資格を持つ園田寿・甲南大学法科大学院教授に聞いた。
「これまでも『芸術』なのか『わいせつ』なのかをめぐる裁判はありました。過去の著名な事件を通じて、この問題に対する裁判所の判断が確立されてきました」
それは、どういった事件なのだろうか。
「露骨な性的描写があった小説『チャタレイ夫人の恋人』の翻訳書をめぐる『チャタレイ事件』や、『阿部定事件』をテーマにした映画が問題となった『愛のコリーダ事件』などが挙げられます。
『芸術性』が高くなると、『わいせつ性』が薄れると判断されました。しかし一方で、『芸術性』と『わいせつ性』は両立するとも判断されています」
今回の事件は「わいせつ性」が高いといえるのだろうか。
「性器を形取ったものが『芸術』と呼べるかというと、社会一般には認められていないのが現実でしょう。
ある意味『マイノリティ芸術』ともいえそうですが、マスメディアとしては自分たちで芸術性の有無を判断することが難しいため、『自称芸術家』という警察発表をそのまま掲載したのではないでしょうか。
裁判所には秩序優先という考え方があり、今までのわいせつ事件では、無罪判決が出にくい状況でした。今回も裁判では、『わいせつ性』が高いと認められる可能性があります」
では、女性漫画家は「有罪」になってしまうのだろうか。
「必ずしもそうとは言い切れません。いくつかの疑問点があるからです。
今回の容疑は『わいせつ電磁的記録頒布等』と想定されますが、まずは3Dプリンタのデータが『わいせつ電磁的記録』にあたるかどうかということです。写真のフィルムを現像するように、わいせつ性が簡単に出現するのかどうかが重要になります。3Dプリンタで容易に形にできるかどうかは微妙なところです。
また、3DプリンタのデータをアップロードしたURLをメールで教えることが、不特定多数に送ることを意味する『頒布』にあたるのかどうかも疑問です。
不特定多数が見ることのできる『陳列』にあたる可能性を考えることもできますが、これは『わいせつ物』を見せる場合のことを意味しますので、性器の形のデータをダウンロードさせる場合は『陳列』ということも難しいでしょう」
結局、警察の狙いはどこにあるのだろうか。
「今回の件は、やはり3Dプリンタをどうするのという問題と密接に関連してくるでしょう。3Dプリンタでは、拳銃などさまざまなものが作れるようになりますが、何を作っても良いわけではないという警鐘を鳴らす意味があるのではないでしょうか」
園田教授はこう締めくくった。
(弁護士ドットコム トピックス)