スーパーフォーミュラ第3戦富士は終盤の雨により、セーフティカーが導入されるなど波乱のレースとなった。 13日、富士スピードウェイで1万7200人の観衆を集めて行われた全日本選手権スーパーフォーミュラ第3戦富士の決勝レース。レース終盤の雨によりレースは大混乱となり、それまでの45周からは想像もつかない結末となったが、10周の間にいったい何が起きていたのだろうか?
ル・マン24時間で負傷したロイック・デュバルの代役として参戦したアンドレア・カルダレッリ(KYGNUS SUNOCO)がポールポジションを獲得、外国人ドライバーが上位を占めた土曜の予選に続き、スーパーフォーミュラ第3戦富士の決勝は、スタートで首位を奪ったジョアオ-パオロ・デ・オリベイラ(LENOVO TEAM IMPUL)が快走。ジェームス・ロシター(KONDO RACING)、アンドレ・ロッテラー(PETRONAS TOM'S)、カルダレッリと続く展開で終盤を迎えていた。
しかし、曇天模様で細かな霧雨が舞っていた富士に、雨雲が接近する。レースも大詰めとなっていた44周目、本格的にセクター3を中心に雨が降り始めた。13番手を走っていた武藤英紀(DOCOMO DANDELION)がコースアウトするなど、スリックタイヤのままではスリッピーな状況となっていく。
●“ギャンブル”に見えた石浦のピットイン
雨は一時強さを増し、ウエットを得意とする3番手ロッテラーがペースを上げ2番手ロシターに急接近。一方、45周目には5番手を走っていた石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)がピットイン。早々にウエットタイヤに交換した。
この石浦のピットインは、場内やJ SPORTSで放映された生中継でも、「ギャンブルだ!」という声が上がった。実際、今季開幕戦では3位表彰台を獲得し、自身のスーパーフォーミュラ初優勝を渇望していた石浦だけに、この天候を味方につけるギャンブルに出てもおかしくはない。土曜の予選後も、「初優勝したい」と語っていただけに、誰もがギャンブルだと思ったはずだ。
しかし実際の事情は異なる。レース後石浦に「なぜあのタイミングでギャンブルを?」と聞くと、「違うんです。実はキャンバーシムがほとんど抜けてしまって、トーが狂ってしまったんです」という答えが返ってきた。
「雨がパラパラ来たタイミングで、ステアリングが突然ナナメになってしまって、真っ直ぐ走らなくなってしまったんです。そこでリタイアしようと思ったんですが、タイヤがおかしい可能性もあったので、レインに換えて様子を見ようとなったんです。ただ、換えてからもまだ狂っていて、どうしようかと思ったのですが、セーフティカーが出たのでラッキーと思い留まったんです」と石浦は教えてくれた。
ただ、石浦がレインに換えてからしばらく雨は小康状態となり、ウエットタイヤのタイムがスリックのタイムを上回るチェンジオーバーまでは至らない。9番手にポジションを落とした石浦は我慢の走行を強いられることになったが、石浦のトラブルは外観から他チームには分からない。このタイミングで、カルダレッリが300Rでコースアウトし4番手に浮上していた中嶋一貴(PETRONAS TOM'S)は無線で、「石浦君のタイムは見ておいて欲しい」ピットに伝えている。
●パーツを避けざるを得なかったオリベイラ
そんな中、スリッピーな路面により、48周目にクラッシュを喫してしまったのは嵯峨宏紀(TOCHIGI Le Beausset)だ。100R出口で姿勢を乱し、ヘアピンアウト側にクラッシュした嵯峨のマシンのパーツが、ヘアピンのレコードライン上に飛散してしまう。
そこへ差しかかったのが、ロシターをかわし差を詰めてきたロッテラーのプレッシャーにさらされていた、首位のオリベイラだった。オリベイラはそれまでのレースで築いたマージンをロッテラーに削られている状況だった。
「僕の前で嵯峨がウォールにクラッシュしたんだ。そうしたら、フロントウイングが僕の前に転がってきて、それを避けなければならなかった」とオリベイラは状況を語った。当然、雨は降り出したばかりだったので、レコードライン上はまだ濡れ方が少ない。しかし、レコードライン上にあったパーツを避けるためにイン寄りのラインでアプローチしたオリベイラは、立ち上がりでアクセルオンした際にスピンを喫してしまう。中継映像ではオリベイラのスピンの後に嵯峨の映像が出たため、嵯峨はオリベイラの後にクラッシュしたように感じられたが、実際は逆だったのだ。
「オーバーステアが出てリヤのグリップがなくなってしまい、それでスピン。本当に残念だよ」
このオリベイラのスピン、嵯峨のクラッシュにより、セーフティカーが導入された。このタイミングの直前、49周目にピットに入ったのは山本尚貴(TEAM無限)。SC中のピットインを選択したのは中嶋一貴、平川亮(KYGNUS SUNOCO)、国本雄資(P.MU/cerumo・INGING)といった表彰台を得たメンバーだ。一方、ロッテラー、ロシター、そして3番手に浮上していたナレイン・カーティケヤン(LENOVO TEAM IMPUL)はステイアウトした。
●セーフティカーのタイミングと位置で変動した順位
このロッテラーのステイアウトについて、トムス舘信秀監督はレース後「最後の雨が降ってきてから、中嶋君のタイヤを換えましたが、アンドレは悩んだ結果ステイにしました。彼自身もステイを選んだんですが、2台とも同じ作戦というのはなかなか難しくて、そういう意味では一貴にはおめでとうと言いたいですが、アンドレにはごめんなさい……という複雑な感想です」と語っている。
結果だけを見ると、このSC中のピットインが正解かとも思える。表彰台を得たドライバーたちは、いずれもこのピットインのタイミングはチームの判断だと口を揃え、チームに感謝の弁を述べた。ただ、SC前にピットインしていた石浦、山本にも勝利のチャンスはあった。SCの入った位置が石浦にも山本にも不利に働いてしまったのだ。「SCが僕を抑えてしまったんですよね。あれが僕の後ろだったら勝てたと思うんです。そこはタイミングが悪かった」と石浦。
「レースが再開してもステアリングはナナメのままだったのでまともに走れなかったですけど、勝てたレースではあったので、それを落としたのは悔しいです」
53周目にレースが再開され、スリック装着勢は為すすべ無くウエット装着勢にかわされてしまう。そんな中、「ちょっと気持ちが空回りしまして(笑)」という一貴はヘアピン、ダンロップコーナーでアウトにコースアウト。ただ、富士のランオフエリアによりクラッシュは避けられた。
これで平川がトップに浮上し初勝利のチャンスも膨らむが、「1コーナーでブレーキングの時にタイヤがロックしてしまって」コースアウト。一貴が再びトップに浮上し、そのままチェッカーを受けた。平川はレース後、「勝てたレースだったので悔しいですが、チャレンジした結果なのでしっかり学んで、次に活かしたい」と次戦の飛躍を誓った。
たった10周強の間に目まぐるしくレースが動いたスーパーフォーミュラ第3戦富士。雨の裏側には、それぞれのドラマがあった。