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【検証】ドイツGPから禁止? FRICの効果を解説

2014年07月13日 12:50  AUTOSPORT web

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今季最速のメルセデスをはじめ、すでに多くのマシンが搭載しているというFRIC。次のドイツから禁止されるという話もあるが、勢力図にどう変化をもたらすのか?
FRICというシステムがやり玉に挙がっている。2015年から禁止にするという話があるが、次戦ドイツGPから禁止になるという話もある。禁止にはならなかった場合はそのまま搭載してもいいが、ヨソから違法性を指摘されて失格になってはダメージが大きい。だから、自主的にFRICレスに切り換えてドイツGPに臨むのではないか、という話もある。

 FRICが禁止される方向で動いているのは、FIAにとってはそれが「違法」に見えるからだ。背景にはコスト削減の意図もありそう。メルセデスを含む複数のチームが、今シーズンいっぱいFRICの採用を認めることに賛成しているというから、独走するメルセデスのパフォーマンスに打撃を与えるのが真の目的、というわけではなさそうだ。

 FRIC(フリック)はFront to Rear Inter Connectedの略で、前後のダンパーを連結したシステムである。F1マシンの各輪にはサスペンションの伸び/縮みのスピードを制御するダンパーがついているが、そのダンパーを結んでいるわけではない。サードダンパーなどと呼ばれる左右の車輪を結ぶように配置されているダンパーを連結したシステムがFIRCで、目的はピッチング(マシンの上下の変動だが、前後で逆の動きになる)とヒーブ(前後が同時に浮いたり沈んだりする)の制御だ。

 F1をはじめとする多くのレーシングカーは、ダウンフォースの発生によって大きな垂直荷重が発生する。ダウンフォースによる荷重はときに車重の3~4倍にも達するが、その場合でも車重が単純に3~4倍になったのと同じなので、各輪が備えるダンパー/スプリングは縮んでしまう。そうなっては空力的に安定した性能を引き出せないので、左右の車輪を結ぶようにダンパー/スプリングを配置して、車体の過度な沈み込みを抑えるのだ。

 FRICは前後のサードダンパーを連結させたシステムで、一方の上側オイル室ともう一方の下側オイル室、一方の下側オイル室ともう一方の上側オイル室を、アキュムレーター(オイル溜め)を介して結ぶ。すると、ブレーキング時にノーズが沈み込むような動きが現れた際には、フロントのサードダンパーには沈み込みを抑える力が発生し、リヤには伸びを抑える力が発生する。その結果、フロントの沈み込みとリヤの浮き上がりが抑えられ、空力的に安定した性能を引き出すことができる。

 FRICの狙いは明らかに「空力」。ゆえに「空力可動部品」を禁止する規則に抵触するとして、にわかに禁止の動きが活発化した。メルセデスが突然速くなったことで脚光を浴びることになったFRICだが、発想自体はずいぶん以前からあり、他チームも含め、散発的に搭載/非搭載が繰り返されてきた。

 昨今、上位チームを中心にスタンダードアイテムとなりつつあるのは、少しでも効果のあるものは貪欲に取り入れる、というスタンスを反映しているからだろう。FRICが非搭載になったからといって、即座に上位チームのスピードにかげりが見えることはなさそうだ。現行マシンの速さにとって最も支配的なのは、FRICではなくパワーユニットだからである。
(世良耕太/Kota Sera)