2014年07月12日 11:21 弁護士ドットコム
日本経済の再生に向けて、安倍政権が6月下旬に決定した経済財政運営の「骨太の方針」。この中に、地方税も含めた法人実効税率を、現状の約35%から20%台へと数年で引き下げる目標が盛り込まれた。
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今後は、実効税率を引き下げた分の代替財源をどうまかなうのかが課題になる。そこで検討されているのが、中小企業への負担増加策だ。
政府税調が示した法人税の改革案には、法人事業税(地方税)について、赤字でも事業規模に応じて課税する「外形標準課税」を資本金1億円以下の中小企業にも導入することや、2008年のリーマン・ショック後に導入された中小企業の「軽減税率」を見直すことなどが盛り込まれている。
報道によると、政府税調の大田弘子座長は「成長する企業を支える税にすべきだ」と述べているが、このような負担増加策は、体力のない中小企業を追いつめる「弱いものいじめ」にならないのだろうか。久乗哲税理士に聞いた。
久乗税理士は今回の改革をこう見ている。
「中小企業への課税強化については、プラスとマイナスの両面があると思います」
では、プラスとなるのは、どういった点なのだろうか。
「外形標準課税ですね。企業が経済活動をするためには、さまざまな公的インフラを使用しています。これらは当然、税金によって賄われています。
中小企業には赤字企業が多いのですが、赤字であれば法人事業税は発生しません。インフラを使用していても、税を負担しなくてよいのです。
その負担を求めるのが、事業規模に応じて課税する外形標準課税です。法人減税の代替財源として導入することについては疑問も残りますが、赤字企業にも課税すること自体は、理論的に正しいと思います」
なるほど、そもそも中小企業に限らず、赤字企業にも負担を求めることには正当性があるようだ。では、今回の改革でマイナスといえるのは、どういった点だろうか。
「『軽減税率の見直し』と『繰越欠損金の損金算入枠の縮小』です。いずれも、経営基盤の弱い中小企業に必要とされてきたものです」
軽減税率の見直しとはどういったことなのだろうか。
「法人税の基本税率は25.5%ですが、中小企業には様々な形の税負担の軽減措置があり、15%まで引き下げられています。
しかし、中小企業は経営基盤が弱いため、大企業に比べ景気変動の影響を受けやすいのです。今年景気がよかったとしても翌年景気が悪くなったら、瞬く間に赤字になってしまいます。
だから、景気変動の影響を弱めるために、中小企業に適用されてきたのですが、今回見直されることになりました」
では、繰越欠損金の損金算入枠の縮小とはどういうことなのだろうか。
「繰越欠損金の損金算入とは、赤字(欠損金)が出た場合に、翌期以降9年間繰り越して、黒字と相殺できるルールのことです。
特に、資本金1億円以下の法人は全額繰り越すことが可能ですので、軽減税率と同様に、経営基盤の弱い中小企業にとっては、負担を和らげるものとして機能してきました。その上限額が見直されようとしています」
いずれも、企業の体力が弱ければ弱いほど、ダメージが大きそうだ。久乗税理士はこう警鐘を鳴らす。
「政府税調は『成長する企業を支える税にすべき』という考え方のようですが、そもそも大企業の成長を支えているのは中小企業なんです。中小企業の負担を増やしすぎると、日本経済にとっても悪影響を及ぼすかもしれません」
果たして、安倍内閣の目指す経済再生は法人減税で実現するのか。今後の議論が注目される。
【取材協力弁護士】
久乗 哲(くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名:税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
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